第14話 強襲!ナポレオン美術館 Ⅵ
1786年7月29日。
フランス革命の気運が高まる中ルイ16世とマリー・アントワネットの第四子は産まれた。
彼女は当時の状勢から国民から祝福される事もなく、人々に関心を持たれる事もなくこの世を去った。
名をマリー・ソフィー・エレーヌ・ベアトリクス・ド・フランスといった……
※
エミールにピシュグルの相手を任せたアンリエッタは再び
攻防は先のやり取りと変わらないものになるがソフィーはあの会話の最中、ひっそりと天井にアイリスの花を咲かせていた。
その葉が剣へと姿を変えるとアンリエッタの真上に落ち傷を負わせる。
全てが均一に真っ直ぐ落ちてきたワケではないので剣が肉体を貫通することは無かったが体勢を崩し倒れた。
そこから彼女は上部に向かって無数の黒薔薇の花を咲かせ続く剣の雨を朽ち果てさせることで防ぐ。
「
同時にソフィーの魔術がアンリエッタに向かって咲き乱れた。
※
アンリエッタが追い込まれる少し前。エミールは問われていた。
妹が居る王党派と敵対するか、それとも強力すべきか…
僅かな沈黙が生まれた後、彼は言った。
「そもそも貴方は勘違いしている。私はルイ17世ではありません」
本物の王族かも解らない記憶にない妹より両親の思いを彼は優先した。
「信じられませんか……」
ピシュグルは悲哀に満ちた表情を見せエミールは「いえ…」と一言いうと
「王家は国の礎となった。だから…もう…必用ないんです」
互い譲り合えないものがあった。
「戦うしかないのですね…」
ピシュグルが剣を構えるとエミールも
※
説得に失敗した…
その時点で勝ち目が薄いことにピシュグルは気づいていた。
そもそも武器となる魔導芸術の密輸が出来ずににアジトが割れてしまったことと失敗続きであった。
この作戦も逃げ回っていてもいつかはフーシェに追い詰められると思い僅かなチャンスに賭けた強襲だった。
その好機を掴みとるため戦うも可能性は着実に時間と共に失っていった。
決定的になったのは体勢を崩したアンリエッタに放たれた攻撃がエミールによって打ち破られたことだった。
「
ここに来るまで姫は度重なり魔術を使い続け もう魔力を大分消費していることは既に解っていた。
だからこそ好転する未来が見えなくなるとピシュグルは戦いながら立ち位置をソフィーの方へと近づけていき背中合わせな形になると彼は言った。
「姫。貴方は私にとって生きる希望となりました」
「?…突然なんですの」
ボソボソとしてよく聞き取れず耳をそばだてる。
「ある者は敵の軍兵をおさえ、ある者は鎖をむしりとれり、いましめを脱し」
聞き覚えのある詠唱だった。それはかつてフランスの地下から逃げられた時に唱えられたもの。
「
「ルビア・オービチェ!!」
いち早く気づいたエミールは
「ピシュグル!諦めるのはまだ早いですわ!最後まで粘りなさい!」
「敵を逃れよ」
姫が叱咤するもピシュグルは止めることはなかった。
「分が悪い戦いに身を投じる必要はありません。それは兵士の役割です。どうか貴方だけでもお逃げ下さい…」
この場から消え行く姫へ、ピシュグルは呟くと最後に言い返そうとする彼女の姿を見送ることとなった。
「あーぁ、一人だけ逃がして、それでおしまい?つまんないの」
何が起きるのか楽しみにしていたアンリエッタは呆気ない終わりに落胆する。
「いいや、お前を楽しませる気はないが最後まで悪あがきさせて貰うおうか」
そう言ってピシュグルは自身に切り傷を入れ〝アンスール〟の文字を書くと獣のように吠える。
すると筋肉が膨れ上がり周囲に圧を感じさせるオーラが吹き上げ、そのまま異質な空気を纏いアンリエッタに向かっていった。
彼は薔薇のツタに傷を追わされようと突進を止めることなく武器を破壊されても牙と爪を立て前進する。
その蛮勇がアンリエッタに届くとき彼女は咄嗟に左腕を出し首に噛みつかれるのを防いだ。
「ふひゃひゃひゃひゃぁ!!良い!!…良い!!」
彼女は目を見開き痛みを堪能すると薔薇のツタで無理矢理ピシュグルを押し飛ばす。
「バーサーカー!私も知ってるよ!向こう見ずで退廃的!
そっかギアナの大自然を生き残ったんだよね!
アンリエッタが気分を高揚させると退廃の魔術の影響が周囲に出始め床が痛み壁が軋む音がした。
アンリエッタの笑い声とピシュグルの咆哮が混ざり合うと互いの攻防が始まりエミールは割り込むタイミングすら判らず巻き込まれないように動くしかなかった。
アンリエッタは踏み込ませぬようツタを操り薔薇の棘で傷を与えていき隙あらば絡め取る。
だが捕まえようにも引きちぎられ暴れる。
本来であれば彼女の魔術によって他の魔術は効力を落とし振りほどくのは困難であっただろうが狂戦士化は広義に言えば
結果から言うと この戦いを征したのはピシュグルであった。
彼はアンリエッタの首を掴み
「
爆発によって頭から血を流すも痛みなど感じさせない様子で獣のように叫びながらアンリエッタをこちらに投げつけ、エミールは受け止める。
反動で後方に体勢を崩し倒れると彼女の意識がハッキリしていないことに気づく、そこに気を取られてしまった事が仇となりピシュグルの接近を許してしまった。
「ラファエルよ我が盾となれ!」
防ぎきれないが少しでも時間を稼ぎエミールは彼女の両肩を掴みながら引きずるように避け床に優しく寝かせ次の魔術を使う。
「
カドゥーダルから模倣した魔術を使い斬り掛かる。
だが相手の魔術を無効化できなかった。
〈本来の力に及ばない?!やはりあくまで模倣品でしかないか……〉
その十字架がピシュグルに叩き折られるとエミールは今度は懐から
彼に心臓があったのならば勝っていたのはピシュグルだっただろう…
そして静かにエミールが口を開く。
「
全てが白く染まり行く中ピシュグルは少しだけ理性を取り戻し小さき王の姿を見た……
雷鳴と共に幕を閉じたこの事件は後にカドゥーダル事件と呼ばれ、もう一つの悲劇へと繋がることとなる…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます