第13話 強襲!ナポレオン美術館 Ⅴ
エミールがナポレオン美術館に着いたとき。辺りは野次馬に溢れ、その人の群れが中に入らないように兵士達が辺りに並んでいた。
エミールが中に入ろうとするも見た目15歳くらいの子供が美術館員なワケがないと頭ごなしに決め付け入れては貰えなかった。
〈致し方がない。別の方法で入るか〉
そう考え美術館の周囲を調べ始めることにした。
※
一方。内部ではピシュグルと〝姫〟が目的の物を見つけていた。
ピシュグルがガラスケースの中に入れら保管されていた一降りの片手剣を取り出そうとするが開けることが出来ず普通にガラスを割ることも出来なかった。
「どうやら、館内に展示されている芸術品は全て魔術的に守られているようですわね」
ここに来るまでの間にも芸術品をいくつか見てきたが どれも傷つけたりすることができなかった。
それは
それでも無理に壊すことが出来ないわけではない。
剣の回収のために魔術でガラスケースを割ろうとした その時。黒いツタがピシュグルを捕らえようと伸びてきた。
それを〝姫〟の魔術が防ぐと奥から出てきたのは肩や背を大きく露出したゴシックドレスを着た女性であった。
「アンリエッタ・ペリエか」
「あら?何処かでお会いしましったっけ?」
ピシュグルに名前を呼ばれキョトンとした表情でアンリエッタは応えた。
「お初ですよねピシュグル将軍?……ああ、でも私も資料で一方的に知っているいるし。誰かから聞きました私のこと?」
アンリエッタが聞くとピシュグルは「ええ」と一言、答え それと付け加えて言った。
「元。将軍ね」
「それは失礼。ところで私のことはどう聞いているのかしら?」
「とても危険だと聞いている」
その答えに唇を尖らせるアンリエッタへ〝姫〟は
「あまり使えませんわね。
あの時の戦いで無事だった芸術品を〝姫〟が使ってみるも容易く潰され不満を漏らす。
「ピシュグル。あの女性の魔術はどういったモノで?」
その質問にアンリエッタが表情を明るくしながら反応した。
「気になる?私のコレ?」
そう言って。その場で一回転し見せつけながら彼女は喋る。
「綺麗でしょ。ゴシックスタイルっていってね12世紀から15世紀頃に西ヨーロッパで広がっていった芸術様式なの
粗野で…歪で…野蛮で…退廃的で…神秘的で…暗くて異質で……
初めてゴシック建築を見たとき、なんて美しいんだろうって…私もこんな風になりたいって思ったの…それでね最初はドレスから始めたの。でも全然、足らなくて今度は入れ墨をしてみて首にチョーカーを着けてみたりしてゴシックに近づく努力をしたの。自分で言うのもなんなのだけれども背中のピアスも上手に出来たと思うけどどうかな?」
身ぶり手振りで動きながら好きなモノを語るとき特有の早口で彼女は熱く語り二人は『なに言ってんだコイツ』状態で少し呆然と話を聞かされていた。
「でね…そうしているうちに、私自身が芸術になっていたの」
その次の瞬間。薔薇の入れ墨がされた右腕を中心に黒薔薇のツタが伸び両名に襲いかかる。
それを先と同様。〝姫〟が防ぐが今度は執拗に攻撃を加えてきたために防壁が壊れ二人は回避することを選ばされた。
続く追撃に〝姫〟が魔術で剣を作りツタを斬る。
が直ぐに剣は腐食しダメになってしまった。
「気を付けてね。私の魔術はゴシックそのものだから、あらゆるものは衰え退廃する」
ならばソレに対抗できる魔術を組み立てればいい。
〝姫〟はサンスクリットで火を意味するトパーズから『悪しきものを遠ざける』という意味を取り出し作り出した剣に付与するとツタを焼き切った。
だが燃え広がらない。
アンリエッタの魔術は物質に限らず魔術自体も衰退させ、効力を落とすほど強力であったためである。
〈強力な魔術だとは聞いていたが…!これ程とはな…!〉
ピシュグルの武器にも魔除けの効果のある〝エオロー〟のルーン文字が刻まれているが効果は殆どなく攻撃を受けて一部 錆びてしまう。
〝姫〟が防壁の魔術を使って支援しているため大事に至らないが決め手がなく、長期戦になればなるほどアンリエッタ側に救援が来る可能性が高くなるため確実に追い込まれてしまう。
ピシュグルは状況打破を狙い例の剣が納められたガラスケースに
クリスは古いジャワ語で〝貫通〟という意味の単語を起源とすると言われている。そこから貫通の魔術を組み上げ切っ先がガラスを貫く。
それが一つの歪みを生み連鎖崩壊を引き起こすと音を立て崩れていった。
〝姫〟はその剣を取ろうと手を伸ばすがアンリエッタに妨害され掴み取ることは叶わなかった。
「そういえばソレに何か用があったみたいだけど。その剣なんなの?」
「あらパリ市民なのに知らないなんて
「私、ゴシック以外は興味ないの♪」
〝姫〟はそのまま微笑むアンリエッタに向かってツタを切り裂きながら前進する。
剣の間合いまで詰め寄ると彼女はツタを床に叩きつけて その反動で〝姫〟の真上を取り剣を取ろうとするピシュグルと真下の彼女に攻撃を仕掛ける。
ピシュグルは障壁によって守られるが、その障壁を作った彼女本人は真上からの攻撃を無理な体勢で防いだ事により床に倒れることになる。
「捕まえた」
アンリエッタが着地した時。〝姫〟はツタに絡め取られ身動きが出来なくなる。
魔術を使おうとするも締め付けてきて集中できず痛みに声が出る。
「気持ちいい?」
上がった声にアンリエッタは質問するも答えは返ってこない。
そのままピシュグルも捕らえようと攻撃を再開しようとしたその時 窓を割って入ってきた人物が居た。
アンリエッタはその存在に一瞬。気を取られピシュグルはその隙を逃さず
ツタを切った
それが風の盾によって防がれるとアンリエッタは言った。
「なにアナタ?あっちのお仲間」
「私はエミール=ジョゼフ・エルヴァ。美術館員です」と名乗ろうとしたが全て言い切る前にピシュグルが声を上げた
「ルイ17世陛下!!」
その一言でアンリエッタもエミールも固まった。
「いま…なんて言ったかしら?ルイ17世??」
確認を取るようにアンリエッタの目線がピシュグルに向く。
「違います。何を言っているんですか貴方は」
エミールは直ぐに否定するがピシュグルは信じて疑わなかった。
「どうして否定なされるのですか?確かに過ぎた年月に比べ、お姿はお変わりありませんが貴方を知る者なら陛下であると答えるでしょう」
「なに??結局アナタ私の敵なの?」
「違います」
アンリエッタの疑いの言葉にエミールは言った。
「…貴方が否定するのであれば仕方がありません…ですが なぜ貴方がソチラ側の味方をするのか お教え下さい」
「亡き王の意志に敬意を表し民主主義を貫いているだけです。むしろ貴方たちこそ何故ここまでして王政を取り戻そうとするのですか?」
「奪われたものを取り戻すのは正当な行為ですわ。それに民主主義と王室の存在は両立できますイギリスではそうしていますわ」
離れた場所から〝姫〟が言った。
「なら法律を守り...」
「法を守ろうとも力でねじ伏せられます」
エミールが口にするより早くピシュグルは言った。
「かつて私が弱かったばかりに不当にもこの地を追いやられました。力なき正義は無力です…」
「ブレーズ・パスカルですか…」
「わかりました?義はコチラにありますの。足りないのは力だけ、貴方が王の意志に報いたいと言うならば
確かに、この二人には正義があるのかもしれない。それでも…
「今この国は王を求めているでしょうか?」
民衆の意志を無視することは許されない。
「あなた方の正義はボナパルト執政が独裁者になることを前提としている。本当になると思いますか?多くの血を流してでも取り返した主権をそれほどまでに容易く民衆が手放すと本気で思いますか?」
「ええ」
ピシュグルは迷いなく答えた。
「人々は主権を民衆の手に取り戻すだの平等だ博愛だ耳障りが良い言葉を口にはしますが実情は自分たちの暮らしや地位を良くすることしか考えていません
それは革命中に嫌というほど思い知らされました。王が居ようとメリットさえ示せば彼らは容易く受け入れるでしょう」
「メリット?」
「西欧諸国はフランス革命が波及するすることを恐れこの国を目の敵にしています。王室が復活さえすれば、その憂いもなくなります」
「…執政が常勝無敗である限りメリットとは言えませんね」
「ややこしい話は嫌いなのだけど、つまり貴方は私の味方で良いのね?」
彼らの会話にアンリエッタは嫌気をさし横から嘴を入れエミールに確認を取った。
「はい」
「そう、じゃあソッチの方を上げる。あと、その剣が狙いみたいだから取られないようにね」
アンリエッタはピシュグルを指さした後に剣の方に指先を向け伝えるだけ伝えると〝姫〟と対峙する。
そしてエミールはピシュグルに言った。
「ジュワユーズ……フランス国王の戴冠式で使われる魔導芸術……そんなモノを持ち出して何をしようと言うのですか?」
「……その前に一つお聞きします。本当にコレで良いのですか陛下」
「何を」そう言おうとした時。思わぬことをピシュグルが口した
「貴方の妹君は生きておりますよ」
言葉が出なかった。
何を言っているか理解できなかった。
妹?
急に言われ記憶を遡るがそんな覚えはない。だから妹の存在をエミールは否定した。
「ご存知ないのですね。無理もありません。公式では産まれてすぐ死去したと発表されていますしね」
その話一つで頭の中が情報処理で一杯になる。
妹が居た?
本当の話か?
嘘じゃないか?
そう考えている内に得心がいった。
「そうか…だから王家にしか使えない魔導芸術を…」
「ええ。証拠もなく名を上げたところで誰も信じはしませんからね
その上で、もう一度。お聞きします。本当にコレで良いのですか?陛下」
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