第12話 強襲!ナポレオン美術館 Ⅳ

 十二上位館員アンシアン二人との戦闘を終えて間もない頃。ナポレオン美術館で〝姫〟とピシュグルが雷鳴を耳にした。


「いまの音。テュイルリー宮殿の方から聞こえましたわね。モローは上手くやっているのかしら?」


「解りませんが、おそらく敗北したと思われます。あの男が大規模な魔術を使えるとは思えませんので」


「……そう。まぁ構いませんわ。目的の一方が叶えば十分ですし」


 そう彼女が言うと二人は館内にある一つの芸術品を探し始めた。



 時間を少し遡りサン・ジュリアン・ル・ポーヴル教会ではアンドレの呼び出した擬人像の群れとドゥノンたちは戦っていた。


 擬人像は素早い者。硬い者。力強い者と特色があるもの入れば何の力のない存在もいた。


 その内の一体に対してドゥノンはウシャブティと呼ばれる小さな人形たちを使い足下から体勢を崩し倒れた擬人像をウシャブティの大群で一斉攻撃で倒す。


 しかしアンドレが魔力を使って再度 新たに擬人像を呼び出すため数が減ることはなかった。


 相手の魔力が先に切れるかコチラが先に押し負けるかの勝負である。


 いま戦えるのはドゥノンとシルヴェスト、それとサミュエルだけで、その内 二人はもう50代で長期戦で体力が持つか怪しいものだ。


 だからこそサミュエルは単純な力勝負を避ける方法を選んでいた。


「よしっ!」


 サミュエルがそう言うと、一体の擬人像が動きを止め同士討ちを始めた。


「あ?!なにやったテメェ!」


 操られた擬人像を見てアンドレが声を上げるがサミュエルは無視して他の擬人像と対峙し始めていた。


〈操られたのはテンペランティア節制か…それに対して使ったのは節制テンペランスカードか…〉


 アンドレは冷静に何をされたか解析を始めた。


〈同じ意味を持つカードで魔術の操作権を奪ったのか〉


 アンドレはもう使い物にならないと理解すると舌打ちしテンペランティアの擬人像を消して再度使用することを止めた。


〈あと操作権を奪われそうなのはイユスティーティア正義フォルティトゥード剛毅プルデンティア思慮か〉


 ついで、その三体も使用を止めたことにより擬人像は残り17体となった。


 数が減りサミュエルは更に攻勢に出る。


審判ジャッジメント!」


 タロットカード20番 審判ジャッジメント。逆位置には再起不能を意味する

これにより擬人像が倒されても再起動が不可能になった。


 着実に数を減らされアンドレはサミュエルを優先的に攻撃するように指示を出した。


 サミュエルも抵抗するが数の優位に徐々に押されていき隙を突かれタロットを奪われてしまった。


「よしよし良い子だアラクリタスちゃん」


 アンドレは素早く動くアラクリタスの擬人像からタロットを受けとると審判ジャッジメントのカードを取り出し破り捨て再度、擬人像を立ち上げた。


「これで残りは丸腰の奴等と年寄り組だけだ」


 ドゥノンの魔導芸術もアンドレと同様、数で押す物だが小さい上に数の補充が効かない。

 もう一人のシルヴェストが持つゲベル・エル=アラクのナイフという象牙できた小さな芸術品から生み出される魔術も強力な力を持っているワケでないのでアンドレには脅威になり得なかった。


〈後は数で押しきれる。大軍に兵法なしとは良く言ったものだ〉


 勝利を確信しアンドレが笑う。


「ついでにコッチも試すか」


 アンドレはそう言って一枚のカードを選び魔術を使うとカードを中心にドス黒く気味の悪い触手のようなものが生まれアンドレの手を飲み込んだ。


「ぎゃあああああああ!!!イテぇ!ぃでぇ!!なんでぇ!」


「バカが他人のタロットを使うと呪われるって知らねぇのか」


 擬人像のせいで倒れていたサミュエルが立ち上がりながら言うように他人のタロットカードを使用すると呪われると言われている。

 そのため現代でもタロットカードに興味を持った素人には『中古で買うなと』釘を刺すことがある。


「くそっ!!そういうことは先に言えよな!!」


「言うわけねぇだろ!どんだけ頭の中スッカラカンなんだテメーは!!」


 逆ギレするアンドレに苛立ちながらサミュエルは頭を掻きながら言った。


「くそ…こんなバカにコレを使わされるとはな」


 サミュエルが懐から取り出したのは奪われたタロットとは別のタロットカードの束だった。


「なんで同じの持ってんだよ!」


「別物だアホ」


 その言葉どおり見たこともない絵柄のタロットカードが並んでいた。そして1枚のカードを選び名称を口にした。


「ネブカドネザル」


 その瞬間。アンドレに向かってエネルギーが解き放たれた!


「お前ら俺を守れっ!!」


 咄嗟に擬人像達を盾にするが擬人像は砕け消えていった。


 力の全てを放ちきりボロボロになって倒れたアンドレが虫の息で言った。


「ふざんけんなタロットカード以外…持ってるなんて聞いてねぇ…ぞ」


「残念だがコレもれっきとしたタロットだ」


 タロットカードは魔術利用されている芸術品の中では最も有名な品であるが、その定義は非常に曖昧である。


と言うのもタロットカードは、まずその起源が不明である上、使


 いまサミュエルが持っているタロットもその内の一つである。しかし……


「使い方は未だに良く判っていないがな」


「意味……解んねぇ…いま使って…たろ」


「ああ、だから使いたくなかったんだよ。このソラ・ブスカ版タロットカードは未だ研究の段階で正常に魔術が使えるかも解らなかったからな。おかげでネブカドネザルのカードが炭になっちまった」


 タロットカードは多様な種類がいくつも存在するが、その中でもソラ・ブスカ版は標準的な構成のタロットと比べ大きく逸脱している点があり特に謎が多く、何のために作られたのか今でも調べられてはいるがハッキリとしたことは判っていない。


 それでもサミュエルはネブカドネザルのカードに含まれる破壊と創造の象徴の竜の絵から純粋な破壊力を持った魔術を作りだしたのだ。


「まぁ魔術と呼ぶには、おこがましい出来の術だったな」


 そうして戦いの決着を示すようにサミュエルが持っていたカードが崩れ落ちていった。

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