第8声 超が付くほどのバカ真面目
牢屋番が椅子に座りながら、牢屋を眺めた。そのひとつの牢の鉄格子の中に
「よし、毎日の基本をするか」
龍馬は、おもむろに立ち上がり正拳突きを行い始めた。
龍馬は心の中で呟く。
(足の指、手の握り、関節の角度、筋肉の力み、歯の咬合、眼のあて、呼吸を整え、思考を整える)
「構えよし」
龍馬は、ゆっくりと右拳を前に突き出し、止め、呼吸を再度整え、拳を脇まで引き締める。
「流れ…よし」
龍馬が壁に近づく。牢屋番は、眼をこすった。龍馬の拳が輝いたように一瞬見えたからだ。
「何かするんだったら、こっちに言ってくれ。この牢は、今は俺が責任者なんだ」
龍馬は、牢屋番の方を見て返事をした。
「はい。壁に向かって正拳突きをしたいのですが…」
「煩くなるのはダメだ。正拳突きってのは、パンチのことか?できれば、もう寝てくれ…あ、神術使ったら罪が重くなるからな。」
龍馬は、構えを解き、牢屋番の方を向いた。
「私、横島龍馬と言います。ありがとうございます。」
「そうか、名前は知っているが…俺の名前はトロスだ。よろしくな。あと、俺が牢番の時は、暴れないでくれよ」
「よろしくお願いいたします!なんか、話しやすそうな方で良かったです。」
トロスは、帽子をとって頭を(ぽりぽり)掻きながら言った。
「そうか…ちょうどお前と同じくらいの子供がいたんだよ…他の牢番は気が早いから気を付けろよ」
「はい!もう寝ます。おやすみなさい!」
龍馬は、横になった。龍馬は、眼をつむり今後の行動について考え始めた。
・・・「おい!横島龍馬!ひさしぶりだな!」
龍馬は、チラっと声を出している者を見た。
そして、また眼をつむり考え始めた。
トロスが、命令口調で龍馬を呼びかけた。
「龍馬!起きろ!ラインハルト様がお前に要件だ!」
龍馬は、直ぐに立ち上がった。
それを見てラインハルトが高飛車に言う。
「横島龍馬!ひさしぶりだな!」
「おはようございます」
龍馬は、とりあえず牢屋番とついでにラインハルトに会釈した。
「ふん!横島龍馬!冥土の土産だ!もう一度私の名前を聞いて死ね!私の名はラインハルト!」「喰らえ! フェニックスディレクション!」
どーん!
牢屋番は、吹き飛ばされた。そして、壁に叩きつけられる瞬間に誰かに支えられた。
「大丈夫ですか?」
「お、おう」
トロスは、やっとのことで返事をした。
「良かったです。それでは、約束守れず すいませんでした。また、どこかでお会いしたら、よろしくお願いします」
龍馬はそう言うと、トロスをドアの外に押し出した。
「よく避けたな!」
龍馬がラインハルトに襲われている頃、
どーん!
「うわぁあぁぁ!なんでぇぁ!」
彩子が声をあげてから すぐにドアが開けられ、イエステールが飛び込んでくる。
「姫!ご無事ですか?」
「あ、はい。」(変な声でちゃった…)
「龍馬は、大丈夫でしょうか?」
イエステールは、一度目を瞑り、何かを探すそぶりをした。
「彼は神素がないのでわかりません。しかし、彼の強さなら大丈夫でしょう」
「そうですよね。ヨウくん…ッ!!!?」
彩子に急なお腹の痛みが襲った。龍馬の左手をパンツから出してお腹の辺りで強く握った。
「…早いが、仕方がない…神の守り、ボールスクロール」
イエステールは、お腹を押さえ「く」の字になった彩子を掌から出してきた球体に包み、部屋から連れ出した。
球体に入った彩子は痛みが和らいだのか、少し落ち着いた表情になった。
しかし、彩子の内心は焦っていた。
(これって、まさか陣痛?いやいやいや、私、処女だし!お腹も大きく…なってる!ヨウ!)
イエステールは、彩子を連れて一つの部屋に入った。
そこには、神殿のような作りの幻想的な空間が広がり、奥に寝台が用意されていた。
部屋で待っていた二人の神徒が、彩子に慈しみのような眼差しを向けた。
その眼差しに見送られ、彩子は球体に入ったまま寝台に置かれる。
その直後、彩子の体から光がこぼれ出始めた…
龍馬は、ラインハルトをぼこぼこにして外に出た。
龍馬は、すぐに走りだした。
ラインハルトをぼこぼこにする瞬間、左手を強く彩子に握られた感触と同時に、熱湯を掛けられたような熱い感触があったからである。
龍馬は、五感をフルに活用し、全力で彩子を探した。
すぐに彩子が寝ていた部屋に着いたが、そこで彩子の匂いが途切れていることに龍馬は動揺した。
「いや、落ち着け!あいつらは彩子を殺せないはず!考えを整理したじゃないか。大丈夫!大丈夫だ!」
龍馬は一度、深呼吸をした。
「あいつの匂いだ イエステール!」
龍馬は走った、イエステールのもとへ。
バン!
ドアの開かれる音が部屋に響いた。
「彩子!」
龍馬の目には、檀上中央にいる彩子がまず目にはいった。彩子の首には何もついていない。いや、何も身につけていなかった。龍馬の左手も見当たらない。
イエステールと、他の神徒が床に膝をつけ、彩子を、いや、彩子の隣に漂う光を仰ぎ見ていた。
「ヨウくん…へへへ…私、お母さんになっちゃったみたい…」
「そうか、身体は大丈夫か?」
龍馬は、すでに神徒たちを通り越して彩子のそばにいた。
龍馬の動きに追い付けなかった神徒たちは、焦って立ち上がろうと膝を伸ばしかける…
「誰も動くな…」
バギッッッ!!!!
龍馬の足元を中心に床にヒビが入る。
神徒たちは、圧倒的な強者に睨まれたような筆舌にし難い悪寒を感じ、全ての生理現象を止められたような感覚に陥った。
(体が動かない…息も…)
ギィィィーーン!
神殿内が僅かに揺れ続ける。
「彩子…行こう…」
「……」
彩子は、一度 龍馬の眼を見て涙をためた。龍馬は、優しく聞いた。
「どうした?」
「行けない。私はここに残る…」
「…そうか…じゃあ、僕も残るよ」
彩子は龍馬から眼を背け、言葉を少しずつ選ぶように話始めた。
「…よ、横島くん…そういえば、この前の告白の続き言ってなかったよね」
「そうだね」
「その続きなんだけど…」
「あ、あ」
彩子の言葉を遮るように光から声が聞こえた。
彩子と龍馬が同時に疑問の声を出す。
「「え?」」
始めに気づいたのは彩子だった。
「おいで、ママだよ」
彩子は龍馬に支えられながら光に手を伸ばす…しかし、手は届かない。
「まってて…」
龍馬はそう言いながら、彩子をボールから出し、自分の学ランを羽織らせ、その場に座らせた。
龍馬は、もう一度 彩子の顔を見て微笑んだあと、漂う光に手を差し込んだ。
(皮膚が溶けるように熱い)
光から出された龍馬の腕には、小さな赤ちゃんが抱かれていた。
(へその尾は?本当に彩子からうまれたのか?疑問はいっぱいあるが…)
「ふふ、可愛いな…彩子…」
龍馬は、彩子に赤ちゃんを差し出す。
「ああ…ママよ…」
彩子は赤ちゃんの張り付いた薄い髪の毛を整え抱き締めた。
「あ、ま」
赤ちゃんは、彩子の言葉に反応したように少しだけ声を出した。
「ずいぶん落ち着いた、赤ちゃんだなぁ」
「……」
「どうした?彩子?」
「…もう、私には関わらなくていいよ…私、横島くんのことなんとも思ってないし、す、す、好きなんかじゃないから…」
「そうか…」
赤ん坊を見たイエステールたちが恐怖を払い除け、駆け寄ってくる。
「か、神よ!ッ!!?」
龍馬がイエステールたちに向け
その瞬間!
瞬く間に神殿の半分と天井が消し飛び…
轟音の後、静寂が辺りを覆う…
完全に静かになった後、彩子は呟き始めた。
「もう、もう…私、あたし…知らないうちに妊娠して、もう子供もいるんだ…横島くんとはもう会えないよ…だからッ……」
龍馬は、彩子の話の途中で
「だから関わらなくていいって?そんなの知るか!僕が好きなのは彩子!これは彩子でも変えられないよ。彩子がそばにいると笑顔になれるんだ。彩子と目が合うだけで楽しいと思えるし、彩子のことを思うといくらだって頑張れる!もし、応援してくれたら、無限に努力できるね!僕は頑固なんだ。絶対譲れないものは何があっても譲らないし、一度好きになったやつを嫌いになったり、信用しなくなったりするほど賢くないよ。自分で言うのもなんだけど、僕は超がつくほどのバカ真面目なんだ。…僕は彩子が好き。幸せにしたい。僕は、やさしくなって、彩子にやさしくしたいんだ…本当は一緒に幸せになってほしい。あの…だから…その…であるからして…」
彩子は龍馬の焦った顔や仕草を見て、途中から笑っていた。
「…ぷッフフフ…あははは…長すぎだよ…らしくないよ、ヨウくん!」(いっつも言葉がみじかいのに…)
赤ちゃんは、彩子の胸のなかですごくおとなしく寝ている。
「ごめん、驚かせたかな…僕には この子が神だろうと関係ない。彩子の選んだ道なら僕は彩子とその子を守る…いや、愛する。彩子の幸せのために生きる…約束だ」
「ん…」
彩子は、赤ちゃんに微笑みながら顔を赤らめた。
「ヒューヒュー熱いねぇ!りょ☆う☆ま☆ちゃん!」
龍馬と彩子は声の方を見た。そこには、すすけたアトラディとフィンディが立っていた。
「龍馬!やってくれたね!力になりに来たのに城ごと吹き飛ばすなんて、頭おかしいんじゃ…いや、化けもん過ぎるだろ!」
フィンディの方は煤けておらず、落ち着いていた。
「まあ、まあ、落ち着いて本題に行こうよ、フフフ」
「そ、そうね。龍馬、あなたも薄々気づいているかもだけど、その子、私たちの生みの親にして神の「ひとつ」の野郎の子供…」
アトラディは、鋭い目付きで彩子が抱く子供を見据えた。
二人に緊張が走る。
…
「ゴホッ!ゴホ!…あああ!もう!」
アトラディは、咳き込むと悪態をついた。
「じゃあないわ…ケホッ…あなたたち二人の子よ!龍馬と彩子さんのね!…もう!龍馬ぁあ!あなた、足早すぎだし城は吹き飛ばすし、煙が喉に入っちゃうし!むちゃくちゃじゃない!」
フィンディがアトラディをなだめ、二人を中心に少しだけ明るい雰囲気が包み始めた。
しかし、彩子は一人、取り残された感覚に陥っていた…
彩子は、疲れていた。初めてのしかも一人だけでの出産…龍馬の言葉は嬉しかった。心に響いた…しかし、もう仲間がいる龍馬に対し彩子には龍馬とこの子供しかいない…
彩子は無意識の内に、龍馬の服の裾を掴もうと手を伸ばしていた。
龍馬が呟く…
「そうか…」
未だに漂う光が叫び声を上げた。
「うおおおおおお!!!!」
彩子が、伸ばしたSOSに龍馬は…
※※※※次回予告※※※※
子供って可愛いよね。子供と言えば、幼稚園や保育園のときの、カボチャパンツ…ではなく、園児たちが組分けされててひまわり組とか、バラ組とあ色々あったじゃないですか。そこで、面白そうな組名を思い付いちゃったんで紹介します!
その名も…キリン組(Killing me)…
…運命は、残酷である…良いこともあれば悪いこともある…人は物事の捉え方で善くも悪くもなると言うが…運命に流され、選択権を持てない彩子には堪えられない…
次回!第9声「出るか?必殺!那由多の拳!」
君(テメェラ)のパンツは何色だぁ!
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