第2声 「やわらかかった」
引き込まれたと思ったが、右手を掴んでいた感触はもうない。代わりに失った左手の感触だけが僅かに感じられる…気がした。
龍馬が右手や両足、頭をバタつかせても何にも当たらない。床すらない。
『(浮いているようだ。彩子は、どこにいるんだろう)』
龍馬はそう考えながら、何も無い暗闇を漂う。
(『…こんなことをしている場合じゃあない!』)
龍馬は、声を出したつもりだったが、自分の耳に全く聞こえない。口を押さえる。
『(何も感触がない。…腕を曲げても、曲がった感触すらない。)』
龍馬は、漂う。
『(考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!!焦れ!焦れ!焦れ!焦れ!)』
ここでも、龍馬は
左手の感覚だけがある。
時間がたった…
龍馬の左手にはやわらかい感触だけが伝わっていた。
龍馬は、自分の意識と左手の感覚しかない世界だと自覚した。1日がたったかもしれない。いや、一週間、1ヶ月いや、十年…数分しかたってない気もする。
『(やわらかい…この感触…)』
声が聞こえた。
〈
言葉は分からないが、自分を馬鹿にしていること、
(『彩子は、無事なのか?』)
〈無事だよ。話を聞かない奴だな。君の左手を持ってる彼女から手を引いてくれ。君の意思でその左手の感覚を離すイメージをすれば良いだけだよ。〉
(良かった…やわらかい…)
…
〈土人め!あの子に変な気をおこすんじゃねえよ!〉
『(やはり!この感触は!!!)』
龍馬は、薄れた意識の中、最も純粋で最も重要なことに気づいた。
『(あやこの…胸!おっぱい!皮膚!生乳!スベスベ!ちっパイ!暖かい!最高!最高だ!)』
〈おい…〉
『(体の感覚が戻ってくる!意識がはっきりする!これ以上無い幸福感だ!最高だ!)』
龍馬は、意識が極限まで集中していくことを感じ…そして、彩子のことだけを案じた。
……
『(目が見える。景色だ…あの空間、あの声はなんだったんだ?どのくらい時間がたったんだろう…)』
龍馬の前には、草原が広がっていた。周囲を見渡すと、地平線に森とその先に連なる山々が見える。
『(日本じゃないな。)』
龍馬は、パンパンと体を確かめてみる。
『(左手以外、異常なし。学ランも来ている。上履きか…)』
『す~は~』
息をしてみる…音が出る。
『やわらかかった…最高だった』
声を出した。そして、もう一度左手の感触を味わう。
新世界でのこれが、横島龍馬の第一声であった…
龍馬は左手を見る。何もない…が、無い場所からうっすらとだが温もりを感じた。
彩子は、生きている!龍馬は、確信めいたものを感じた。
もう一度周囲を確認し、地面にあった棒をとり、石をポケットに入れた。
遠くに建物が見える。
龍馬は、たどたどしい足取りで周囲を横目で警戒しながら、建物へ向かった。
※※※※次回予告※※※※
不安と恐怖を胸に、男は歩を進める。
なぜ、男は歩みを止めないのか…
助けたい人がいるから?ちょっと違う…
守りたい人がいるから?ちょっと違う…
好きな女がそこにいる!それだけだ…
次回第3声 情報収集と要求
君には好きなやつはいるか…
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