君の声が聞きたい

拳パンチ!

第1声 愛を貫く男の話

(準備100%だ。よし!)

 横島龍馬よこしまりょうまは、開口一番に声を上げた。


彩子あやこ、好きだ!愛してる!婚約を申込みたい!』


 …


 私の名前は、常磐彩子ときわあやこ!名前がアから始まるから分かるよね!そう!ヒロインよ!髪型は、七三分けのショートカット、可愛いお耳と少しうなじを見せてるのがチャームポイントなの!髪色は、ダークブラウンで…

 って現実逃避してる場合じゃないよー!?マガジンマークってね。…


 いや、違う!今、告白されてるの!高校の放課後に勉強用に解放された教室で二人っきりのシチュエーションなのは最高なのだけど…こんなの焦るに決まってるよ!たぶん!


 人生で初めてなの!こんなにはっきりと告白されるなんて、普通ないよ!ヨウくん※とは、小学校のときは、時々スーパーで一緒に夕御飯選んだりして、中学は部活ばっかりであんまり話さなかったけど、なぜか、目で追っちゃってたんだよね。それから、高校になって勉強で居残りして家が近いからよく一緒に帰ってるくらいで…あれ?めっちゃ仲良しじゃん…(※ヨウ=彩子は横島りょうまのヨウをとってヨウと呼んでいる)


 ここは、落ち着かなきゃ。相手だって緊張してるはず!


 彩子は、「チラ」と擬音を発声しながら見上げてみた。


 涙目じゃん! 早くなにか言わないと、あれ?私の気持ちは?相手は保育園から一緒の幼なじみだけど、そんなに遊んだこともないし、優しい人なのは分かるけど、こんなに急にいわれても…急だったっけ?ん?


『あ、こんなこと急に言われても、困るよね?ぼ、僕は常磐さんとことが…好きです。君を守れるように君に優しくできるように最強になったんだ…こ、これを伝えておきたくてね。返事は、いつでもいいです。』


 むむむ、鋭すぎ。心を読まれた?『最強』って何?まあ、いいか…よく考えて見れば、『好きです』は何回も言われてたし、『黒帯取ったよ』とか、『優勝したよ』とか、『もっと強くなるからね』とか良く報告されてたわー、なんかそれが可愛くて恥ずかしくて毎回誤魔化してたんだよね…ハハハ…彼の気持ちには気づいてたハズなのに…私って最低だな…


 今回こそ、答えるよ!よし!イクゾウ!


「うん…私も…」


 あれ?なんて言おうとしてたんだっけ?


「…気持ちを伝えてくれて、本当に嬉しい。良く思ってくれているのは…了解です…じゃあ、こんど、今度返事するね。」


『うん…』


 あれ?私の気持ち分かんない。頭がぐちゃぐちゃだよ。また、流しちゃった。これで良いのかな?いや、良くないのは分かってる。誰か!私に勇気をください!やっぱり今!返事しないと後悔する気がする…

 ま、まずは相手に私を好きな理由を聞こう!


「ヨウくん…一つ聞いてもいい?ごくり」


私の生唾を飲み込む音、大きいな…


『はい!』


「なんで…私のことなんで…」


 …あれ?好きなのって聞けない…


「…何でもない、ここまで言いたいことが出かけてるのだけど…なぜか言えないの…うん!ちょっと待って!」


 こら!私!なんで面と向かうといつもヨウくんに気持ちを伝えられないのよ!

 深呼吸(すーはーすーはーすーはー)


「よし!気持ちを伝えてくれてありがとー!はっきり言って気持ちは嬉しい…私は!私の返事は…………ごめんなさい…私の気持ちが落ち着くまでは…え~と、また、まだ待って、ください!」


 また、言えなかった…失敗しちゃった…


『分かりました。ありがとう!』


「返事聞いても、友達だかんね!」


『うん、ありがとう。やっぱり優しいね。』


 もう!気まずいんだから!というかほとんど顔見れないよー、と言うか何で「好き」って言えないの?もう、何回目?この前も告白されてるはずなのに、毎回気持ちが伝えれない…


 「チラ(ヨウくんは笑顔だ…)」


 また、彩子は擬音を多用しながら龍馬の二の腕を肘で小突き、言った。


 「ドカッ!もう、まだ返事してないんだかんね!帰るよ!」


 甘えちゃってんるんだろうなあ


『うん!?あやこ!!!』


 龍馬が彩子に覆い被さろうとした。

 

「えッ!なに?」


 ビカアアアー!

 常磐彩子を覆うように強い光が放たれた。


『ぐあッ!』


 龍馬は彩子に触れることなく彩子を包む光に弾かれる。


 常磐彩子の周りを円柱状に薄いすりガラスのような光る幕が覆っていた。その光のすりガラスから一部、ボヤけずはっきりとした部分が存在した。


「あれ?ヨウくん…どこ?」


 彩子は、周りを見渡した。


「ヨウくん、大丈夫?ねぇ!ヨウくん!」


 床と天井には、幾何学模様や魔方陣のようなものが描かれ、光を放っている。


『…掴め…』


 彩子は僅かに龍馬の声がした気がした。


 手だ。光が弱い部分から龍馬の手首より先が、彩子の頭の高さに突き出している。


 「ぎゅ!」と言うと、彩子は龍馬の手を握りながら叫ぶ。


「ヨウくん!良かった…どうしよう…」

『一気に引っ張るぞ!うッ…抜けない』

「…ぎゅうッ!ヨウくん!」


 彩子は龍馬の手を握る力を強める。

 それに合わせたかのごとく、床と天井の魔方陣のようなものから強烈な光が放たれる。


 ビカアアアアアアー!…


『があああ!あやこおおおお!』


 …


『あやこ…痛っつ!』


 龍馬は、先程光った場所から3mほどの所で目を覚ました。光の場所には何もない。常磐彩子の姿も。


 ガバッ!ダダダ!


 龍馬は、駆け寄り四つん這いになり床をさぐった!


『嘘だろ?なあ?わッ!』


 龍馬はバランスを崩して転倒した。


『左手がない?いや、あやこ!』


 それから、龍馬は部屋内をくまなく探したが、常磐彩子がいなくなったという事実だけが探せば探すほどわかってくる。


 龍馬は、恐怖した。彼女が消えてしまったことに。


 もう会えないかもしれないということに。


 龍馬は、呆然としていた。そして、自分の体の変化に意識が向いてくる。


 それすらも、彼には恐怖だった。意識がそれれば、彼女のことを忘れてしまうのでわないかと思ってしまうためだ。


 しかし、体の欠損は、現実のものであり、左手が目に入る。


 ない!腕から先がすっぽりとなく、断面は黒く渦を巻いており、全く見えない。


 …!?


『握られている?』


 少しだけ、意識を自分に向けることで、腕の先はないし、動かせないが、左手を握られていることが分かった。


『(彩子は、いる!僕の手を握っている!)』


 龍馬は、全神経を集中させ、なくなっている手に意識を向けた。


 僅かな振動を感じる。

 その振動が消えないようにと祈りながら、なくなっている手の欠損部に耳を当てる。



「…」何か聞こえる!


 彼はさらに集中する。

 僅かだが音が聞こえてくる。


「…ヨウくん!ヨウくん!分かる?!」


『(聞こえた!)』


 彼は全力で欠損部を動くように集中する。…


「動け!?動いたか?」


 僅かな感触があった。

 すぐさま龍馬は、欠損部に口を当て叫んだ!


『あやこ!無事か!どこだ!』


 耳を当てる。


「ヨウくん!大丈夫!生きてるよ。何か、つれてこられたみたい」


さっきよりも声が聞こえずらい。


『絶対助けにいく!まってて!』


 また、耳を当てる。


「…」振動しか分からない。


 …『(くそ!)』


 欠損したはずの手に感触がある。つつかれているようだ。


 …何かをなぞり書きはじめた。


『く・の…わからなくなった。くそ!』


『(考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!…)』

『焦れ!焦れ!焦れ!焦れ!左腕はつながっているんだぞ!…!?!』

『(さっき、耳を当てたときに全く感触がなかった。)』


 左手の欠損部分の黒い渦に右手を突っ込む。


『(入る!!!?)』

『うわ!』

『(何かに捕まれた!)』


 龍馬は、左手の中に引き込まれていく。彼は一瞬、躊躇したが、焦りが勝ち、そのまま引き込まれた。


 ※※※※次回予告※※※※

 左手の中に引き込まれた龍馬は、どうなるのか?光に包まれ消えてしまったトキワは、どこにいったのか?疑問はつきない…

 次回第2声 『やわらかかった』

 君はあの感触を知っているか…





 ※男:横島龍馬(よこしまりょうま)

 ※ヒロイン:常磐彩子(ときわあやこ)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る