　ヒロは三面鏡の中の自分を見つめる。

　ハルピュアとの戦いて薄汚れた体を風呂で洗い流し、部屋着に着替えていた。

　髪の毛を下ろした自分の顔を見て、女の顔になっている事を自分でも自覚してしまう。

　あの時のオリオンの顔を思い出して胸が締め付けられていく。その気持ちを押さえる事がヒロには出来なかった。

　ふと目の前にある櫛（くし）で髪をブラッシングしてみる。前髪を綺麗に整えるとまるで違う人のような顔になる。前に化粧師がやってくれたのを真似して頬紅（ほおべに）と薄く口紅を引く。一段と別人になった。そして立ち上がり衣服の並ぶ棚に、そこにはあの収穫祭の前にオリオンに選んでもらった女性用の服があった。

　ヒロは部屋着を脱ぎ捨てると、それを身に纏（まと）い、もう一度鏡の前に立つ。そこには明らかに十六、七位の美しい少女の姿があった。

「オリオン……」自然に彼の名前を口にしてしまった。

　コンコン！ノックをする音がする。

「ちょっと、ヒロ入ってもいい！？」それはカルディアの声であった。返事をしようとしてから自分の姿を見て自分の口を手で覆った。

「入るわよ！」

　カルディアがドアを開き部屋に入ってくる。それを待たずにヒロは部屋の窓を開けて部屋を飛び出した。

「あれ、いないの？あっ、窓を空けっぱなしにして無用心ね」カルディアはそう言いながらヒロの窓の鍵を閉めた。そして三面鏡をチラッと覗きこんでニコリと笑ったかと思うと部屋を出ていった。

　カルディアが居なくなったのを見計らって窓を開けて部屋に入ろうとする。

「えっ、ええ！？」窓には鍵がかけられていて入る事が出来ない。ヒロは顔面蒼白になった。まさかこの姿でカルディア達に見つかるわけにはいかなかった。

　時間は今、正午であった。暗くなるまで時間を潰して、人知れず戻る事にした。

　ヒロは身軽に宙返りをしながら、二階から飛び降りた。ひとまず、商店でも見て時間を潰すことにする。

「娘さん、綺麗な髪飾りはいかが？」アクセサリーを売る小さな店の女が声をかけてくる。

「あ、いや、俺は、お金が……」ヒロがあたふたしていると、女主人が大きく綺麗な花がついた髪飾りを彼女の髪に飾った。

「あら！凄い素敵よ！！お代はいらないからうちの店の宣伝をお願いね。それと、彼氏がいないのだったらうちの嫁に来ない？ちょうど若いのが二人いるのよ」女主人がそういうと奥から腹の出た男が二人姿を表した。

「あわわわ、け、結構です！これ、ありがとう！！」ヒロは丁寧にお辞儀をすると一目散に姿を消した。

　髪飾りを着けたヒロは目立つようで男達の視線が彼女に注がれる。それで焼きもちを焼いて喧嘩を始めるカップルも散見されるほどであった。

　ヒロも少し楽しくなったようで鼻唄を歌いながらスキップをして、街の散策を始めた。男の姿では入る事を躊躇するような店もこの姿なら自然に入る事が出来るのだ。

　ふと前を見るとカルディアとアウラ達が歩いてくる。ヒロは気づかれないように、すましたふりをして彼女達の隣をすり抜ける。

「あれ？」イオが何かに気がついたように振り替えった。

「どうかしたの？イオ」カルディアはイオに訪ねる。

「ううん、なんでもないダニ！！カルディア様、お腹が減ったダニよ！！」イオはお腹に手を当ててアピールする。

「そうね、せっかくヒロも誘おうと思ったのに、何処にいったのかしら？」カルディアは不満そうな顔を見せた。

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