第39話 暗殺者

 あるオフィスの部屋。


 その部屋は社内でも解りにくい場所にありその存在を知っている社員は少ない。二人の男が机を挟み商談のような会話をしている。


 黒い上下のスーツにノーネクタイ。その頬はこけて体は異様なほど痩せていた。この男は暗殺を生業なりわいにしている。彼はこの世界では『龍』と呼ばれていた。その名前以外、彼の情報を知っている者はいない。


 今回の彼への依頼は、この会社の大株主でもある社長、その妻と娘の処分であった。

 彼の暗殺の手腕は完璧であり、今までも彼の手掛けた仕事が事件として扱われた事はなかった。その代わり報酬は莫大な金額で、そう易々と依頼を出来るものではなかった。


「今回のターゲットの写真だ」依頼者の男は三枚の写真を龍に手渡した。


「ふーん、解った……」受け取った写真を順番に眺めていく。

 父親、母親そして娘。写真を確認する龍の目が娘の写真に釘付けになる。


「どうかしたか?」依頼人は龍の様子に気づく。


「い、いや、綺麗な娘だな……」珍しくターゲットに興味を持つ暗殺者に依頼人は意外な一面を見たような気がした。


「ああ、面白いものだな。お前みたいな人間でも、その娘にはかれるか」依頼人が笑う。


「何だと!?」龍は少しの殺気を込めた目で依頼人を見つめる。


「あ、いや、その娘は昔から社長の自慢でな。なにか催し物があれば必ず同伴させていた。本当に美しくて誰もが惹き付けられる。しかし、その娘を生かしておいて何処の馬の骨か解らん男に会社を乗っ取られるのも困るのでな……」一瞬この龍という男から放たれた殺気にも似た気配で、依頼人の男の背中は冷や汗で濡れた。


「そうか……」男はもう一度娘の写真を確認する。


「変な気を起こすなよ。まあ、殺す前に何をしようと、それはワシらも知らんけどな」依頼人はいやらしい笑いを見せる。


「下衆が……」龍という男は小さな声で吐き捨てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る