2話-3
肩を掴まれたとき、殴られるかと思った。しかし構えた身体に対してその力は弱く、ただシルヴェストルを椅子に座らせた。なに、という言葉は声にする前に掠れて消えた。
「食事をお持ちします。座っていてください」
オスカーは淡々と告げ、食事のトレーを持って帰ってくる。ついでのようにつけられた明かりが暗闇に慣れた目に痛い。
食事が広げられる。蓋がされたスープは開ければまだほこほこと暖かそうな湯気を上げた。正直何も口に入れる気分ではなかったが、否応なしに腹は減る。
褐色の男は未だ部屋の隅に立っている。
「……食事の邪魔だ、消えろ」
「はい」
素直な返事。
オスカーがシルヴェストルを蛇蝎のごとく嫌っているのは流石に知っている。『失敗作』の姉に入れ込んで、出来損ないの元巫女候補に構い続ける物好きだ。それもそうだろう。
それなのに彼はどうやってもシルヴェストルに敬意を表さなければいけないのだから難儀なものだ。笑えてしまう。
笑みを浮かべるシルヴェストルをよそに、オスカーは扉に手をかけようとしたが、ぴたりとその動きを止めた。不信に思って視線が上がる。
「明日」
ポツリ、と言葉が零された。
「お誕生日ですね。おめでとうございます、シルヴェストル様」
彼の表情は見えなかった。
生まれたことを忌むわけではないのか。深い意味のない言葉だとしても、すこし、不思議に思った。
バタンと扉が閉ざされる。食事を数口口に運んだ。いつもと変わらないはずなのに、味がしなかった。
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