7.6
セリカたちが銃を構え、狙いを定め、引鉄に指を掛けようとした、その瞬間。震えていた昏獣たちが、ピタリと動きを止める。それと同時に、池全体が一瞬だけ、強力な青白い光に包まれた。
「なッ! ……なん……なんだ、今のは……?」
何かをされたのは間違いない。だがジルには、何をされたのかよく分からなかった。
昏獣は動きを止めたまま、こちらの様子を窺っている。何をするわけでもなく、ただじっと、まるで何かを観察する科学者のように、じっとりとこちらの様子を窺っている。
「……トンテ。何が起きたと思う……?」
ジルの問いに、警戒のためか全身の毛を逆立てたトンテが答える。
「分カラン。デモ少シ、体ニ、違和感ガ、アル」
ジルもトンテと同じく、体に少しだけ違和感を覚えていた。
――体が、痛い。
生身である左半身と顔全体が、まるで無数の細い針で刺されたような痛みを感じる。だが痛みは弱く徐々に引きつつあるため、行動に支障が出るほどではない。
ただジルは、他にももう一つだけ違和感を覚えていた。
――何故、誰も発砲しないのか。
先程ロベルトが命令し、銃を持つ四人が今まさに発砲しようとしていたはず。それなのに、誰一人として発砲してない。
少し前方に立っているロベルト、ニック、ニーナは銃を構えたまま直立不動。背中しか見えないため、その表情は窺えない。
ジルは昏獣たちを警戒しながらも、すぐ隣にいるセリカへ目を向ける。セリカもロベルトたちと同じく、銃を構えたまま立っていた。だが――
「セリ……カ? セリカ!」
突然、セリカがまるで銅像のように姿勢を全く崩さぬまま、前へ倒れ始めた。ジルは急いでそれを受け止め、必死に名前を叫ぶ。
「セリカしっかりしろ! どうした! 何があった! セリカ! セリカッ!」
「ア……アァ……ア……」
セリカの顔は、苦悶に満ちていた。過呼吸を繰り返し、全身が痙攣していた。
そして、この状態にあるのはセリカだけではなかった。
ロベルトも、ニックも、ニーナも、次々と倒れていく。
「どうなってんだ……どうなってんだよ畜生ッ!」
「落チ着ケジル! マズハ、冷静ニナレ! 状況ヲ、確認、シロ!」
トンテの言葉で、ジルは何とかパニック状態から脱する。そこから深呼吸を繰り返し、周りへ目を向けながらちぐはぐな思考で状況を確認した。
八体の昏獣は、未だにこちらの様子を窺っているだけ。どこかで見ているだろう巨猿も襲ってくる気配はない。
とりあえず、すぐに危険が迫ることはないだろう。
セリカの状態は不明。過呼吸と痙攣が酷く、どうすればいいのか分からない。ロベルトは受け身も取らず前から池へと倒れ、微動だにしていない。あのままでは息ができないため、早く助け起こさなければならない。
ニックは比較的様態が軽い。倒れはしたが膝と両手をつき、なんとか立ち上がろうとしている。だが体が上手く動かないらしく、四つん這いになるのがやっとな様子だった。ニーナは後ろから池に倒れ、様態はセリカとほぼ同じ。浮力で顔は水面から出ているため、過呼吸ながらも何とか息はできている。
全員の症状を見て最初に思いついたのは、神経毒。
先程感じた軽い痛みが毒針によるものなのであれば、可能性はある。しかし、それだと服を着ている胴や腕、昏獣から隠れている背中まで痛みがあったのはおかしい。毒にしては即効性がありすぎることや、自分とトンテだけが無事なのも不自然だ。
ジルは記憶を辿り、考える。あの昏獣たちが、何をしたのかを。
水場に住む昏獣……
強力な発光……
離れた位置からの攻撃……
肉体に感じた独特な刺激……
全身の痙攣……
過呼吸……
そして、自分とトンテだけが無事……
これらの事象から導き出せるのは……
――感電しかない。
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