第2話 ニャコ端会議

 「それではこれより、第38回ニャコ端会議を開催する。」今日の議長役を務めるセントレアマンション301号室の住人・・・の飼い猫ツネが声高らかに宣言した。セントレアマンションで飼われているニャコ・・・じゃなく猫達が不定期に開催している話し合いがニャコ端会議である。

 「開催は良いけどさあ、今回はずいぶんと間隔短いじゃん。前回は別室から匂う焼き魚の誘惑からどう理性を保つかってことで一週間前に集まったばかりだぜ。」504号室の猫、フクスケが発言した。管理人に飼われている猫、姫子がすかさず「そうよねえ。ちなみに焼き魚問題は結局飼い主におねだりしようって結論だったけど。私、3回試したけど、成果なし。」と愚痴った。

 「確かにそうなんだが、のっぴきならない事情ができてね。人間界で流行している病気がどうやら猫にも感染したらしいんだ。」ツネが神妙な表情で言った。

 「それって、確かな情報なの?」404号室の猫、ドンキーが聞いた。「まず、間違いない。一昨日の新聞に書いてあったからな。」ツネは自信満々に返答した。

 「あんた、よく人間が書くあんなくねくねした記号読めるわねえ。さすが猫界の東大、ニャコデミー出身なだけあるわ。」208号室のソニアが言った。

 「まあ、じゃあ用心しないとな。で、どうする?」フクスケはすぐに結論が知りたそうだった。「どうするって・・・、じゃあ、あれはどう?人間がよくしているアレ、えーと白い色で・・、口も鼻も見えなくなるやつで・・・」

 「マスクだろ。」物の名前を思い出せないドンキーにフクスケがフォローした。「そうそう!マスクだ!僕たちもマスクで予防しよう。でも、鼻も口も隠して、息苦しくないのかなあ。」ドンキーは疑問に思ったことを口にした。

 「私たちがあんなのしたら、鼻と口どころか、顔全部が覆われるわよ。息の心配より、まず一歩も歩けないわね。」ソニアは呆れ顔で言った。

 「まあ、あたい達にはそもそも無理だけど、何でも人間も今はマスクを用意するのに苦労してるみたいよ。ウチの飼い主もちょっと前までは近所の人と話すとき、芸能人のゴシップネタがメインだったのに、最近ではマスクがトピックの断トツ1位ね。芸能人がマスクに話題奪われる時代が来るなんて、猫がかつお節より雪に夢中になるくらいあり得ない話だわ。」姫子が夢でも見てるかのように語った。

 「じゃあ、人間も口も鼻もむき出しかあ。あいつらやたらと顔すり寄せてくるからなあ。」フクスケが思い出しながら言った。「そうそう、あれヒゲが生えてると痛いんだよねえ。僕たちの肌って意外にデリケートなのにね。」ドンキーが言った。「まあ、可愛がってもらってる証だから普段は我慢できるけどよお。今は有事だしな。よし!仕方ねえが事態が落ち着くまで、顔近づけてきたら引っ掻くか。」フクスケはこれが結論とばかりに言った。

 「まあ、そうねえ。お互い命には替えられないしね。」「まあ、人間達は猫が気まぐれって勝手にイメージもってるみたいだしね。」姫子もソニアもフクスケの意見に同意した。

 「でも僕の飼い主、悲しませたくないなあ・・。」ドンキーは悲しそうな顔をしながら呟いた。

 「まあ、ドンキーの意見も分かるが、猫情は一つ置いといて、心を鬼にして引っ掻き案で暫く様子を見よう。」ツネがとりまとめた。

 「まあ、心配がなくなったら、俺たち得意の猫なで声作戦で、たくさん奉仕しようぜ。」フクスケは浮かない表情のドンキーを元気づけた。

 「また早くご主人様と触れ合えるよう、ここは人間も猫も頑張るわよ!」ソニアは威勢よく言った。「よーし、じゃあ頑張って引っ掻くわよー!」姫子のかけ声に五人・・・いや五匹の猫はかけ声をあげたのだった。

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