アニマルの”ちょってぃーしーぱーと”
オーエキ コウユウ
第1話 動物園のゴリラとゾウ
とある動物園。「今日もシーンとして誰もいねえなあ‥。」比較的開放的なオリの中でゴリラは呟いた。
「騒がしいヒトってやつは鬱陶しいんだけど、ここまで久しく見られてねえと、ちいーっと物足りないって思っちゃうのは、オレのわがままってもんかねえ。でも、こんなにヒトがいない動物園やばくね?潰れちゃうんじゃね?」
ゴリラのオリの隣に位置するエリアからゾウが答えた。「仕方ないよ。今、ヒト様はコロナ対策で大変だもの。ここもそれで休園してるって飼育員のよっちゃんが言ってたよ。」 「おう!元気かい?相変わらずデカいし、なげー鼻だな。そういやあ、ヒトがまだいたときは、やたらとそのコロナ、コロナってワードを聞いてたけど、なんだそりゃ?タピオカの次に流行ってる食いもんか?」ゴリラが聞いた。
ゾウはあきれた様子で言った。「おまえさん、もうちょっとヒト世界を学んだ方がいいよ。まあ、ヒトの会話から察するに、なんでも恐ろしい病気らしいよ。命の危険もあるんだって!」
ゴリラはびっくりしながら、「ヒャー、マジか!命って、そりゃあ半端ねえな。でも、オレもたまに風邪ひくけど、ヒトってのはそんなんで死んじゃうのか?そんな弱かったか?」と尋ねた。
「ヒトだって、ただの風邪じゃ死なないよ。あたしらが見られてるときだって、鼻水流してニタニタ楽しんでるちっこいヒトがいっぱいいたじゃない。早く拭いた方がいいよってこっちが心配しちゃうようなさ。あんなんじゃなくて、何でもコロナっていうのは、初めて見るウイルスっていう小さな菌が原因なんだってさ。」とゾウが答えた。
「あー、ウイルスかあ!ありゃーやばいな。うん、絶対やばい。俺の仲間のゴリラも、エボラっていうウイルスで犠牲になったんだよ。そうかあ。ヒトも今大変なんだな。あの鼻水小僧もピンピンしてるといいけどなあ。」ゴリラが遠くを見つめて言った。
ゾウが思い出したように言った。「この前、よっちゃんが干し草持ってきたときに言ってたけど、ヒトは今なるべく家にいるよう指示が出てるんだってさ。仕事も自宅でやるようにって。」
「へえー。大変だなヒトってのは。うん?待て待て、じゃあ、よっちゃんはなんでいるんだ?あいつヒトじゃなかったのか?ヒトってのは見かけによらねえなあ。あいつなんだ?マントヒヒか?」ゴリラが笑いながら言った。
「何言ってんだい。よっちゃんは正真正銘ヒトだよ。私のためにちゃんと仕事に来てくれてるんだよ。あんたんとこの飼育員のキューピーだっけ?それも来てくれてるじゃない」ゾウはゴリラをたしなめるように言った。
「ああ、確かに。あいつもそういう事情があったんだな。こりゃあ、感謝しないと罰があたるってもんだな。しっかし、あいつ無口だからよお。今のヒト情報が伝わんねえのが欠点なんだよなあ。」ゴリラは答えた。そして続けて「ヒトは家で仕事か。そんなんじゃ、ここに来るのも無理だな。そんならいっそのことオレも在宅にしてくれよ。ちょっとくらいジャングルに戻ってもいいじゃんかなあ。なんでオレ達はずっと仕事場にいないといけねえんだよ。」と少し不満を感じながら愚痴をこぼした。
ゾウは「何言ってんだい、私たちにとっちゃあ、ここが仕事場兼自宅なんだよ。屋根もあるし、食べ物には苦労しないし、空調完備も完璧だし、最高じゃんよ。他に何の不満があるって言うのさ。」と言った。
ゴリラは思い返しながら「まあ、確かにな。いや、オレはさ、野生ってもんを忘れちゃう自分がちょっと怖くてさ。」と悩みを唱えた。
「まあ、ヒトが戻って来るまで、待とうじゃないの。戻ってきたら私たちもまた忙しくなるんだからさ。ヒトも制限されながらも家で頑張ってるみたいだよ。室内での遊びとか、運動とか。だから私たちも、来るべく日に、ちゃんとヒトを迎えられるように準備しとかないと!」ゾウが前向きに言った。
ゴリラは気を取り直して言った「そうだな、そうにちげーねーな!よし、じゃあオレも逞しいボディキープのためにいつも通り筋トレしとくかな。待ってるぜ、鼻垂れ小僧!あ、ヒトのために自宅でできる筋トレでもYou Tubeにあげてみっかな。今度、キューピーに提案してみるか。」ただすぐにゴリラは、「だけど、あいつ、オレの面倒ずっと見てるくせに、オレの言葉をなかなか理解しねえんだよな。めっちゃゆっくり喋ってやってるのに、ほんとバカで困るよな。これじゃあ、ありがとうも伝わらねーしな。」とちょっと照れながらつぶやいた。
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