落ちこぼれの居場所
私は昔から作文が大好きで、夏休みの宿題以外でも作文を書いていた。地元の作文コンクールに送ったり、先生に無理やり押し付けて読んでもらったり。
アホな私は文章を書いてさえいれば何かに繋がると思っていた。
しかし大きなチャンスをつかんだことはなく、今でもうだつが上がらない。
好きなことをしても本を読んでもテレビを見ても人の話を聞いても、イマイチ「好きなことで生きていく方法」というのは分からない。私が世間知らずのアホだからか、どの話も抽象的にしか聞こえないのだ。
夢を叶える方法についての情報を見ても開運とか考え方の話みたいでネガティブな自分にはあまりうまくできなかった。
引き寄せの法則、宇宙の法則、自己啓発、動画サイトの「聞くだけでお金持ちになる音源」……。試してはみたけれど。
私は「人間は絶対好きなことで生きていけるはず」「夢は叶うはず」と信じていたが、まさかその認識が間違いだったのだろうか。
私は大抵のことは落ちこぼれで、同じミスばかり繰り返して怒られてきた。
対人恐怖症、運動オンチ、いじめられっ子……
体育の時間はいつも憂鬱で、特に競争やスポーツが苦手だった。
欠点だらけで、中でも「やることが遅い」とよく指摘される。
おまけに自覚はないが性格も悪いらしく、「なんでそんなこと言うの!」と怒られることが多かった。そして何がいけなかったのかはよく分からないまま、同じようなことを繰り返す。未だによく分かっていない。
我ながら本当に学習能力がなくてのろまで、取り柄のない人間だと自信をなくしてばかりだ。
そんな私が心安らげるのは、自然や物語の世界に思いを馳せているとき。
人間らしい社会的な話題は苦手で、生き物やファンタジーが好きだった。
そんな生き物の世界も、私が思い描いていた絵本みたいな仲良しこよしの世界ではなく弱肉強食でしかないことを知り、ファンタジーも存在しないことに気づいた。おまけに夢も叶わないことが当然で、ワガママは言わず我慢して生きることこそが「人としての成長」で、世界は嫌なことだらけなのだろうかと思い知らされる今日この頃。
世界は誰のためにあるのだろう、なんのために生きているんだろうと思ってしまう。けれど自分にとっての希望といえば……。
絵や文章だけは昔、学校で褒められたことがあった。
作品の題材は主に生き物のこと。
ある時作文コンクールで最優秀賞をとり、表彰式に参加した。そのとき自分で自分の文章を音読したのが忘れられない。学校でもみんなの前で表彰されて……。
いつも落ちこぼれな自分が認められたのが嬉しくて「こんな空気の中で生きていけたら良いのになぁ」と願った。
それでも現実に戻れば落ちこぼれ。
相変わらず怒られるばかりだ。
そのうち私はこうしてネットで文章を書くようになった。
中学か高校のときの文法のテストは散々だったが……。私はきちんと日本語を理解しているわけではなく、難しい言葉を使いこなせるわけでもなく、文章を通じてコミュニケーションを取りたいだけなのだ。対人恐怖症で対面は苦手だから。
文章以外では絵を描いたりもしている。絵もクラスメートに褒められて自信がついたことがあったからだ。
そうして好きなことをしていると、褒めてもらえる機会は多い。
夢にまで見た優しい世界だ。
絵や文章を通じて、なんとなくいつも自分に居場所があった。
別に、誰かとずっと一緒にいることで居場所を感じるわけではない。
長時間一緒に過ごしたって、必ず仲良くなれるわけでも居場所にできるわけでもない。なんとなく心地いい場所もあれば、そうでない場所もある。
一瞬の触れ合いで居場所を感じることもある。
道や公園で人から話しかけられるときなんかも。
そして絵や文章を書くことで、そういう淡い「居場所」をより引き寄せられるようになった。
私より上手な人、面白い人、才能のある人ならたくさんいる。
心の汚い自分は、コミュニケーションが上手で人と良い関係をたくさん持てる人や、才能があって人に囲まれている人を見て、嫉妬することもある。
それでも、そんな自分と関わってくれる優しい人は絶対にいるのだ。
その時々で関わる人が変わっても、「素敵ですね」と褒めてくれる人がいる。その言葉に、今まで関わってくださった人を思い出す。人間はみんな違うけれど、猫が猫であるように、人間も根底に何か共通点がある……。人間の中に、他の人の面影を感じるようになった。
人の褒め言葉に頼るなんて、弱々しいかもしれない。批判されてもめげずに精進する心が必要かもしれない。そのうち誹謗中傷とか嫌がらせとか、嫌なことだって起こるかもしれない。
ネットの世界が怖くなることもある。けれど今、自分のまわりだけを見れば、穏やかで優しい時が流れている。
嫌なことが起こっていない今はまだ、そんな可能性は忘れていたっていいかと思う。自信がなくたって弱くたって、居場所を求めていたって良いじゃないか。消え入りそうな自信を手放さないため……好きなことを忘れないようにしている。
今、居場所がないと悩んでいる人は、好きなことをやって居場所を見つけてほしい。
うだつの上がらない私が言うのもなんだけど……
きっとすべての人に、居場所はある。
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