いつか「思い出」になる場所で

 最近、野草に少し興味がわき始めた。


 赤い花を咲かせる蔓草のマルバルコウ。

 在来種だと思ったら外来種だったオオオナモミ。

 根からアレロパシー物質を分泌するセイタカアワダチソウ。

 三角形ではなく丸い実を付ける、可愛い名前のマメグンバイナズナ。



 そういえば昔、一面に草が生える空き地があった。

 そこに生えていた草の種類は覚えていないが、目を閉じて思い返してみると、一面茶色い枯れ草のイメージが浮かび上がった。



 中学校に徒歩通学していた頃、私はその空き地を通って近道をしていた。

 冬は草が枯れていて通りやすいが、夏は立派な茂みとなる。


 冬が終わると徐々に通りづらくなるため、通っていたのは主に冬の間だったと思う。

 だから私のイメージの中であの空き地は茶色なのだ。

 しかし通れる間は春でも通っていたはずだ。



 その空き地は今では公園になった。

 休日にはけっこう子ども達が来るようで、にぎやかな声が聞こえる。

 私が近道していた入り口は閉ざされ、もう通り抜けられなくなった。



 今でも思い返してみるとうっすらとあの道の様子が浮かんでくる。


 獣道のような鬱蒼とした入り口。生い茂る草。

 入り口を通ると見える風景。


 多分、私しか見ていない風景。



 あそこにはどんな植物が生えていたんだろう。


 調べて見分けたりはしなかったから、すべてで一つの緑のかたまりにしか見えなかったけれど……いろんな植物が生えていたんだろうな。


 頭の中にはまだあの場所があるのに、実際の景色は変わっているのが不思議だ。



 変わったといえば隣町のスーパーはリニューアル前はもっと薄暗かった。

 スーパーに限らず昔の建物の中は今よりもっと薄暗く感じた。


 ぼんやりとした白。その奥に広がる淡い闇。あまりぱっとしない色合い。

 ちょっと怖かったけれどあの薄暗さが懐かしい。



 消えたものは他にもいろいろある。


 川が工事されてホタルが消えた。

 ソーラーパネルを敷き詰められて雑木林が消えた。



 あの日見つけた白い花のカラスノエンドウ……

 白い花のノゲシ…… シロバナタンポポ…… シロバナマンジュシャゲ……


 来年も咲いているだろうか。

 生き物のいる光景はすぐ消えるからなあ……。



 雑木林を切ってソーラーパネルを敷き詰めるのがエコってことなのだろうか。

 雑草の茂る草むらを切り開いて外国の美しい花を植えることがガーデニングなのだろうか。



 ここに生えていた野草の名前、住んでいた生き物たちの種類、生き物たちがいた光景を思い出せるように……これから名前を覚えていきたいと思う。





関連エッセイ「音も立てずに終わる今」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896019060/episodes/1177354054896357793

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る