音も立てずに終わる今

 私が小さい頃、となり町のスーパーにヘリウム風船の自動販売機があった。

 何度かそこで風船を買ってもらった覚えがある。


 どんなふうに風船が出てきたかもうあまり覚えていないが、たしか風船が膨らんでいく様子が見えて、大きめの取り出し口から風船を取り出していた。カラフルな自動販売機にワクワクしていたような気がする。



 風船の自動販売機の近くには本屋さんの絵本コーナーと、屋上への階段があり、階段には子ども向けの可愛らしいイラストが描かれていた。

 屋上は、屋上遊園地というほどではないかもしれないが、小さい子向けの乗り物がある遊び場になっていた。さらにゲームコーナーも近くにあった。



 また、少し離れたところにあるおもちゃ売り場ではおもちゃで遊べるコーナーがあり、ロボットペットと遊んだりゲームをしたりできた。

 子どもの時、遊べそうなものがいっぱいあるそれらのエリアはワクワクする場所だった。今でも雰囲気だけ、なんとなく覚えている。



 しかしそのうち屋上の遊具にはブルーシートがかぶせられて動くことがなくなり、その後遊具はいつの間にか消えていった。今では屋上は駐車場になっている。


 おもちゃで遊べるコーナーもたしか、もうなかったのではないだろうか。

 子ども心がくすぐられるエリアが少なくなっていく。



 この間どこかでヘリウム風船の話を聞き、ふっと風船の自動販売機とそのまわりのエリアの光景を思い出した。


 子ども向けエリアに限ったことではないが、物は放っておけば壊れてゆくし、維持費とか需要とか世代交代といった事情もあり、常に入れ替わってゆく。


 身近だった物たちも採算がとれなくなれば消える。旧式の物は新型に変わる。


 そう思うと、今ある景色も儚いものだ。



 以前上ることができた時のスーパーの屋上は、たしか高い柵で囲われていてまわりの景色は見えなかった。でも駐車場になった今、ちらっと見てみると、見晴らしがよくて素敵な眺めの場所に変わっていたようだった。駐車場なのでくつろぎに行ったりはできないが……。



 屋上のあの景色を見ながら食事なんかできないかなぁ……。


 もう遊び場は戻ってこないだろうけれど、遊び場が消えたあと、あのスーパーの屋上でパンを食べたひとときの思い出も蘇る。


 次にまたあの屋上に変化があるとしたら、今度はほっこり休憩できる場所になっていてほしい。



 以前はそのスーパーの近くに観覧車もあった。


 そこから見た景色の記憶はもうないけれど、たしか何度か乗せてもらっていたはずだ。


 その時はあそこから町を見渡せたんだなぁ……。

 もう、身近にとなり町を見渡せるスポットはないかもしれない。



 そういえばあれからもう、風船の自動販売機を見かけない。

 このあたりではどこへ行ってもないようだ。

 他の場所に行ったときにまた見られるだろうか。



 もう戻れない、小さい頃に見た光景と、あの時のワクワク感が懐かしい。


 小さい頃の思い出も……変わりゆく町も……。

 儚い今のこの瞬間も、手を離したら飛んでいってしまうヘリウム風船のようだ。



 頭の中のいらないものから手を離せば、心はヘリウム風船のように空高く飛んでいけるだろうか。


 目を閉じて小さな頃の気持ちに思いを馳せれば、観覧車よりも高いところから町を見渡せそうな気がする。

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