第8話 再会
「
俺は現時点で可能な限りの『空間』を展開した。
「
そして、空間内の情報を調べ上げる。人は.......。五人。意識が朦朧としていて、
しかし、一人は少し離れた場所におり、その他の四人と向かい合っている。これは、彼女だ。どうやら、あいつらの手から逃れたらしい。
「さすがだぜ、キリカ.......」
俺はさらにそこでスキルをかけた。
「
瞬間、四人の動きを止めた。
キリカ、今のうちに、逃げてくれ。お前は、あんなやつらのおもちゃになるような人間じゃねぇ。
「ちっ、クソが.......」
こんな状態で空間術を連発したせいで、いよいよ体が限界を迎えようとしている。口の端から鮮血が垂れ、視界も点滅してくる。
しかし、俺は気を失うまで、四人の動きを止め続けた────。
♢♢♢
思考の海に落ちる。体が沈んでいき、徐々に水面が遠ざかる。そんな俺の目の前には、記憶の欠片達が舞っていた。
俺は、どこで道を間違えたのか。いや、道が問題ではない。そもそも、俺の在り方が間違っていた。
一つ一つの思考が、行いが、軽率だった。そうして積み重なった結果がこれだった。ただ、それだけだ。
ほんと、どうしようもねぇやつだな、俺って。涙を通り越して笑えてくる。
けど、まだ死ぬわけにはいかねぇ。あいつに会うまでは。会って、伝えなきゃいけないことが、伝えるべきことがある。
だから────。
「...........ス!」
あ?なんだ?なにか、声が聞こえる。
「ユー.......おき.......!」
誰かが、呼んでいる。眩い光が体を包み、海が消失していく。これは.......?
「ユーリスッ!!!」
「..............!」
耳元に大声が響き、一気に意識が覚醒した。
「あ、れ.......」
「ユーリス.......」
ぼやけた視界に映るのは、涙に頬を濡らす少女の姿だった。金色の髪を揺らし、碧く透き通った瞳に俺の姿を映し取る。
「キリカ、か.......?」
信じられない。俺はまだ、夢でも見ているのか。確証を欲して、彼女の方へと手を伸ばす。すると、彼女は俺の手を取り、頬に寄せた。
「良かった.......。また、会えて.......生きてて、本当に良かった」
彼女は声を震わしながら何度もそう告げてきた。キリカの温もりを感じる。これは、夢でも幻でもない。彼女は本当に、ここにいる。
「それは、こっちのセリフだ、キリカ。無事で、よかったよ」
俺は思わず笑みを零してしまった。本当に、良かった。彼女と、こうして会うことができて。胸にわだかまっていたものが、少しだけ剥がれていく。きっと、あのまま彼女が慰みものになっていたら、自責と絶望に押しつぶされていただろう。
だから、こうして再び笑顔が見れただけで、救われたような気持ちになった。
「お前、どうやってあいつらから逃れたんだ?」
彼女は指の背で涙を拭いながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「抑えてたやつの顎に頭突きを入れて、あいつらの手から一時は逃れたの。けど、武器がなかったから、あいつらをはっ倒すこともあんたを追いかけることも出来なかった。それでどうしようかと悩みながら睨み合ってた時、急にあいつらの動きが止まった」
「そう、か」
ちゃんと、止められてたんだな。
「その後は、奪われた武器を取り返して、そのままここに落ちてきた」
「..............は?」
落ちてきたって.......。確かに、キリカの服は土などで汚れており、膝などに擦り傷が出来ている。
「ナイフを壁にさして、スピードを下げながらゆっくりくだってきたってこと」
「そんな芸当、よくできるな.......」
「まあ、上位の『短剣使い』だから」
彼女はナイフをクルクルと回しながらそう答えた。
「それで降りてみたら、血まみれのアンタと、既に死んでるあれを見たってわけ」
そう言ってキリカが指さしたのは、ゴブリンオーガの死体だった。
「.......もしかして、ジェイロ達を止めたのも、あれをやったのも、あんた?」
その問いかけに、俺は口角を上げながら応えた。
「どうだかな」
「相変わらず嘘が下手」
彼女はふふっ、と笑みを零した。
「色々聞きたいこともあるけど、治療が先ね。見たところ、まあまあ重傷だけど」
「割りと死にかけかもな〜」
「そんな口を叩けるなら、命に別状は無さそうだね」
確かに全身に小さな裂傷を負い、肋は何本か逝っているだろう。しかし、一度睡眠をとったからなのか、疲労は緩和され意識は冴えている。痛みも断続的に襲いかかってくるが、まだ耐えられる範疇にあった。
なんにせよ、空間術を連発して死にかけだったあの時よりはマシだった。
「立てる?歩ける?」
「まあ、多分な」
「肩貸すよ」
そう言って、彼女は俺の腕を自分の肩に回させ、そのまま立ち上がらせてくれた。
「わりぃな」
「こんぐらい、いいって。てか、なんか雰囲気変わった?」
「前と今、どっちが好み?」
「言ってろ、バーカ」
彼女は心底嬉しそうに笑みを浮かべた。俺もつられて破顔する。
なんにせよ、早々に再会できて万々歳だ。彼女が心を傷つけられず、体も汚されずに済んだのだ。ひとまずは、安心していいだろう。
「キリカ」
「ん?」
「色々、ありがとな」
彼女は頬を赤らめながら、しっとりと言い放った。
「.......いいよ」
次章 王女との出会い
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