第一部 第一章 王女との出会い
第9話 第一王女 1
俺はキリカに支えられながら、洞窟の出口へと向かっていた。
いつまでも続く暗闇と、閉鎖的な空間。ここにいるだけで自然と鬱屈な気分が溜まっていく。
そんな洞窟にいい加減飽き飽きとしていた時。角を曲がったところで、一筋の光が差し込んだ。
「出口か?」
「ようやく出れる.......。どっか休める場所があるといいけど」
そんな一条の希望に賭けて、俺達は洞窟を脱した。
「「................」」
しかし、そんな俺達の目の前に広がるのは、どこまでも鬱蒼と生い茂る森林だった。空気は澄んでいるが、見通しも悪く魔族の気配もチラホラと感じる。
都合よく集落などに出るとは思っていなかったが、さすがに運が悪い。すぐにでも休みたい俺にとっては、ため息も出ないほど最悪な状況だった。
「最悪だ.......」
「ユーリス、まだいける?」
「ああ。死ぬようなもんじゃない」
「わかった。じゃ、のんびり進も────」
「うわあああああ!!!」
耳をつんざくような男の悲鳴が響き、鳥達が飛び去って行く。
「.........幸か不幸か、だな」
そう遠くない場所に人がいる。それ自体は僥倖だ。しかし気になるのは、聞こえた声が悲鳴だと言うこと。
「とりあえず行ってみる?もしかしたら、助けてくれるかもしれないし」
「助ける側になるかもしれねぇけどな」
俺達は淡い期待と不安を抱きながら、歩みを進めた。
♢♢♢
向かった先には、木々のない開けた場所があった。右から左へとそれが続いていることから、比較的大きな道だということがわかる。
よかったー、道があって。と安堵するのも束の間。その道の上では、少々ややこしいことが起こっていた。
道の中央に、荷台付きの豪勢な馬車が一台。その馬車の窓からは何者かの影が見える。
その馬車の入口には、給仕服に身を包んだ黒髪の美女が立っていた。瞳は凛々しく、雰囲気はどこか冷たい。
そんな女性の前には、鎧を身に纏う二人の男がいる。その姿からして、王都を守護する騎士の一員なのだろう。
その騎士の二人は武器を構えながらも情けなく足を震わせていた。その要因は、周囲に広がる青い蛇の群れだ。
ブルーサーペント。戦闘能力の低い下級魔族ではあるが、群れをなして行動するため厄介な相手。素早く動き回り、その毒牙をもって獲物に襲いかかる。
ブルーサーペントの毒は、睡眠。噛まれれば瞬く間に意識を失い、その隙に人間の肉を啄むらしい。
非常に対処が面倒であり、どんな手練でも隙を見せれば一瞬で眠らされてしまう。
「くっ、こんなところにブルーサーペントがいるとは.......!」
「なんて数なんだ」
騎士達は得物を構えてはいるものの、動揺を露わにしている。ブルーサーペント達はそんな二人にジリジリとにじり寄る。
「どうする、助力する?」
「.......いや。お前も俺も疲弊してる。ひとまずは様子を見よう」
俺達はその戦闘を木陰に隠れて見守ることにした。あいつらがブルーサーペントを討伐して、一段落したら助けを求めよう。まあ、あの騎士達だけであの蛇達をどうにかできるともあまり思えないが。
「クソっ、来るならこい!」
そんなことを俺が考えている内に、騎士の一人が怯えながらも威嚇した。
瞬間、十数匹のブルーサーペントが一斉に襲いかかる。体をくねらし、地面を縦横無尽に這っていく。単体ならば対処も可能だっただろうが、あの数は厳しいだろう。
ましてや、騎士達のリングの石は青。下位のジョブだ。その上、恐怖が戦意を圧倒的に上回っていると来たもんだ。
これは思った以上に、勝負にならなそうだ。
「う、うわあああ!!!」
「っ.......!しまった、足を!」
あっという間に距離を詰めたブルーサーペント達は、振るう刃を交わし、鎧の無い部位に噛み付いた。
毒は瞬時に巡り、男達は唐突に膝を崩す。そして、その場に倒れ伏し、やがて気を失っていった。
「大丈夫か、我が騎士たちよ.......!」
騎士達が眠りにつくと、馬車の中から彼らの身をを憂う声が響く。女、か?
「大丈夫です。ルミナ様は馬車の中でお待ちください」
給仕服の女性がそう呼びかけると、「.......わかった」と、中の人間がか細い声で応えた。
女性は一つため息をつくと、一歩前へと踏み出す。
いや、危ねぇだろ。騎士でさえ瞬殺されたのに、ただのメイドが抗えるとは到底思えない。やっぱり傍観してる訳にもいかねぇか。
俺とキリカの考えは同じようで、アイコンタクトをとってから飛び出そうとした。
その時───。
「この程度なら、朝飯前です。」
彼女は腰の後ろから二丁の拳銃を抜き取った。
「
銃口が赤く発火する。二つの銃弾が放たれ、ブルーサーペント二体の頭部に風穴を穿つ。
その後も、破竹の勢いでブルーサーペントの群れを撃ち抜いていった。動作の一挙手一投足が洗練されていて、繊細かつ大胆。それはまるで、流麗なダンスのようだった。
俺がその動きに見とれている時、彼女の腕の袖が僅かにめくれた。そこから覗くリングの石の色は、赤。上位のジョブの持ち主。道理で強いわけだ。人は見かけによらねぇな。
俺がそんな感想を抱いている間に、メイドさんによる蛇の掃討は終わりを告げていた。心配も杞憂だったな。
「終わりました、ルミナ様」
「さすがじゃ、クロエよ!」
中ではしゃぐルミナとやらに、クロエと呼ばれた女性はゆったりとお辞儀した。
なんだかんだ一件落着のようだ。俺達は重い腰を上げ、二人の元へと向かおうとする。
しかし───。
シャアアア──!!!
残党か、第二波か。木の影からブルーサーペント達が唐突に湧いて出たのだ。
ブルーサーペント達は背中を見せているメイドに勢いよく突貫していく。
「なっ.......!」
メイドは一瞬反応が遅れる。拳銃を構え、二匹の蛇を瞬時に絶命させることはできたが、全てを捌き切ることはできない。
「くっ.......!」
ブルーサーペントはその勢いのまま、メイドに牙を立てた。
さすがに、これ以上は見過ごせねぇな。
「
『空間』を展開し、馬車の元まで広げる。
「
そして、毒牙がメイドに届く寸前。ブルーサーペント達の動きを停止させた。
「.......え?」
その事象に、メイドは目を丸くした。その間にキリカは片手でナイフを抜き、スキルを放った。
「
キリカが放ったナイフは回旋しながらブルーサーペント達の首を落としていく。そして円を描くように宙を走り終えると、手元に帰還してきた。
ブルーサーペント達の死体が地に伏していく。蠢く魔族の気配はもう残っていない。
「全部、やったか」
「たぶんね.......」
俺達はブルーサーペントの掃討を確認すると、重苦しい息をはいた。二人とも疲労が重なっている中無理をしてスキルを発動したため、どっと足が重くなる。
そんな体を引きずるようにして、何とか森林から道へと出てきた。
すると────。
「止まりなさい」
メイドは瞳を鋭くさせ、こちらに銃口を向けてきた。
「何者です。三つ数える間に答えなさい」
「え?」
「へ?」
唐突な宣告に二人して口をポカンと開けてしまった。
「3.......」
有無を言わすこともなく、彼女はカウントを進め始める。一切の曇りのない、純粋な殺意。それは確かに銃口と瞳に込められていた。
「2.......」
「おい、こいつマジだぞ」
「ちょい待って、あたしら怪しいもんじゃ──!」
「1.......」
「待つのじゃ、クロエ!」
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