第6話 名家 VS 成金
一時間目の授業が終わると、まだ朝の空気をのこす教室がにわかに騒がしくなる。
180cmを超える長身とかなり太めの体型。それだけでも目立つ彼は、肩までのばした髪を金色に染めて、全身をハデな高級ブランド品でおおい尽くしていた。
常陽学院には学校指定の制服があるものの、校則では私服も許されており髪型についても
実際に、鬼塚兄妹はいつも黒のスーツを着用しているし、好みの私服で登校する生徒や髪を明るく染めている生徒もそれなりにいる。
しかし、全学年を見わたしても、
「昨日も遅くまでパーティーがあってね。おかげで
声も
そして、ことあるごとに
「おいブタ。静かにしろ!」
先にしかけたのは唯だった。祖父からの課題が解決せずイライラをつのらせていた彼女にとって、大吉の
「ブタっていうのは、
「おまえ以外にいないだろ。大江大吉。いったいなにを食えば、そんなにブクブクと太れるんだ?」
「君のほうこそ、どうすればそんな小学生みたいな
「アタシは、本当にうまいものを
適当なタイミングで止めに入ったほうがいい。そう考えて虎徹が
「今日はやたらとご
今朝の株価急落のニュースを見て唯が損失をだしたと思いこんでいる大吉は、
「誰が失敗したって? バカいうな。
「それはすごい! コツがあるならぜひとも教えてもらいたいね!」
大吉は大げさに唯をほめたが、その口調は挑発的なままだ。
「ああ。特別にレクチャーしてやるよ。おまえには
「……僕に、恩?」
ついさっきまでイライラしていた唯は、口元に
「こういうときはな、大江コーポレーションみたいに無能なトップが経営に失敗した会社を、トレンドに従ってさらに売り叩くんだよ」
「父さんの会社を
「そのとおり。きっかけはおまえだけどな」
「僕がきっかけ?」
「親に買ってもらった高価なブランド品を、
唯の顔に
「思ったとおり、いや思った以上に会社の中身はひどくてさ、今回はしっかり空売りで
「なんだと!」
怒りの声を上げた大吉が、
さすがにマズい! 止めに入るために、すぐさま虎徹は立ち上がり晴人もそれに続く。しかし、二人よりも先に
二人の動きは、目の前で見ていた虎徹ですらとらえることはできず、彼が気づいたときには、
「イタタ! 放せ! 僕は、まだなにもしてないじゃないか!」
押さえつけられながらも抗議する大吉に、舞は冷たい
「まだなにも? そっか。わたしが止めなかったら、唯ちゃんに手をだすつもりだったんだね?」
同時に大吉の腕がさらに強く締め上げられ、教室に彼の
普段は明るく優しい舞が見せる、
「唯ちゃん、このブタどうする? なんなら、そこの窓から落とそうか?」
この教室は四階。転落すれば命にかかわる。殺意のこもった舞の言葉を聞いた大吉は、涙声になりながらあわてて唯に
「こ、是川さん。ごめん! 僕が悪かった。ゆ、許してください! どうか話を聞いてください!」
「舞。もういいよ。アタシも
指示をだした唯は、そのまま深いため息をついた。
解放された大吉は、腕にのこる激痛と先ほどまで味わっていた恐怖から、青ざめた顔に無数の
「大吉君、大丈夫だった? そんなに怖がらないでよ。さっきのはただのジョークなんだから」
いつもの明るい口調にもどった彼女は、クラスメイトにも笑いかける。
「みんなもジョークなのに引きすぎだよ。本当に窓から突き落としたら犯罪だよ?」
舞のよびかけにより、張りつめていた教室の空気が少しずつやわらいでいく。
「そうだよな。本気なわけないよな」
「さすが舞ちゃん。演技派!」
「ちょっとカッコよかったよね!」
教室のあちこちから
「ほら、大吉君。これで汗ふきなよ」
「あ、ありがとう」
差しだされたティッシュペーパーを大吉が受け取った瞬間、舞は彼にしか聞こえない声量で冷たくささやいた。
「次は突き落とすからね……」
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