第3話 休まらない1日 後編

「行ってきま~す。」


「いってらっしゃい、気をつけてね。」


「はーい。」


 うちは学校の近くにある。だからちつもは家を出る時間は遅いんだけど、今日は違う。早起きしてしまった以上、家にずっと居ても仕方がないから、ちょっとだけ早めに家を出た。


(今日は彼女に、、、古畑さんに話かけるぞ!)


 などと意気込んでみたものの、、、


(怖い...怖い怖い怖い!!!)

(急に話かけて大丈夫か?変なヤツって思われたらどうする?ていうか、話かけれるのか俺!?)


「ブツブツ...」


「ああ!おーい、ヒロー!」


「ブツブツ.......」


「?」

「どうしたの?ヒロ?」


「ーーーーっ!!」

「うわっ!急に話しかけてくんなよ!ビックリしたじゃねーか!」


「驚いたのはコッチの方だよ~。いくら呼んでも気づいてくれなかったじゃんか。」


「あ、あぁ。そうだったのか、悪い...。」


「いいよ~。で、何か考え事してたみたいだけど、どうしたの?何かあったの?」


「ー!なんもねぇよ。着いてこないなら先行ってるからな。」


「またそんなこと言って。待ってーーー」


「あ…」


「あ…」


 つまずいてしまった。片手はバッグ、もう一方はポケットの中...。

 あぁ...これ顔からいくわ...


 バタンッ!!


「あー!ヒロー!大丈夫!?」


 あぁ、痛ぇ…。


「鼻血!鼻血でちゃってるよ!」

「ティッシュ!ハンカチ!何か押さえるもの持ってなかったっけなあ!」


 ダセェな俺。好きな人に、勇気を振り絞って話しかけようと思ってた矢先にこれかよ...。

 今日は無理かもなぁ...


「あ、あの。」


 女の人の声が聞こえた。


「大丈夫ですか?あ、鼻血が...」

「ティッシュ...持ってるので、これ、使ってください。」


「あ、ありがとうございまーーー。」


 女性の方を向いた。

 

 心臓の音がハッキリと聞こえる...

 

 …言葉が出なかった。

 そこには彼女が、古畑さんがいた。


「あ、、、」

「あなたは...隣の席の...えっと...宮下くん?」


 ーーー


「大丈夫?学校まですぐだから...よければ保健室まで...連れていこう...か?」


 俺は今、人に見せられないくらい顔が赤くなってると思う。焼けるように熱い...。


「あー、大丈夫。俺、こいつの友達なんで。」


「そうですか...。それじゃあ...また教室で。」


「ヒロ、ほらティっ...」

「えぇ!さっきより鼻血出てないか!?」


 ……

 俺は一体、どんな顔をして彼女に話しかければいいんだ...


       ーーーーー


 無事に教室まで来れたけど、、、

 朝から鼻にティッシュ詰めてるからなのか、友人にはからかわれてばかりだ。


 あっ、古畑さんだ...


(なんて話しかけようか...まずはさっきのお礼だな。それだけだと、なんか物足りないな...。なにか話題、話題はないか...)


「ぶつぶつ...」


「おはよう宮下くん...さっき...ぶりだね」


「ヒャッ!?!?」


「…?どうしたの?」


「いっ、いやいや!何でもない何でもない。」


「そう...。」

「鼻血...大丈夫?」


「お、おかげさまで。」


 ヤバい!向こうから話しかけてくるとは思わなかった!ああ、心臓がバクバクいってる。

 落ち着け、落ち着け、、、

 深呼吸、深呼吸、、、すー...はー...


「…ふふっ」

「宮下くん、なんか慌ててるみたい...。」


 あっ、心臓飛び出る...


「…!?ど、どうしたの?」

「か、顔が...真っ青だよ、、え...え、ど、どうしよ...先生、先生呼ばなきゃ...!」


 ハッ...!


「だ、大丈夫だよ!!ほら、元気だから!」


「ほ...ホントに?」


「ホント!ホント!」


 あっっっぶねぇ...!!緊張のしすぎで意識飛びかけたぞ。心臓鳴りすぎて、口から飛び出るかと思ったわ!


 ………


 古畑さん、ちょっと笑ってたな...


  キーンコーン

       カーンコーン...


「あっ...授業が...席に座らなきゃ...。」


「そ、そうだね。ハハハ...」



        放課後


 あれから何も話せなかったなぁ...。

 いつもなら授業に集中できてたけど、彼女の隣の席だということを意識してしまって今日は一切集中できなかった。


「どうしたヒロ、玄関前でボーッとして?まだ帰ってなかったんだ?」

「ん、何でニヤニヤしてんの?ちょっとキモい。」


「ああ、悪い悪い。忘れ物があってさ。」


 でも...初めてあんなに話せた。きっかけはどうであれ、これで一歩前進って感じかなぁ。

 

 今まで古畑さんを直視できなかったからよく分からなかったけど、改めて見てみると...


「綺麗だったなぁ。」


「なにが、綺麗だったんだぁ~?」

「ほれほれ、言ってみなされ。えぇ?」


「なんでもねぇって。」

「ほら、お前は部活あるだろ。早く行ってこいよ。」


「今は休憩中でーす。」


「そうかよ。俺は用が済んだから帰るわ。」


「おっ!じゃあまた明日な!」


「はいはい。」


 明日も古畑さんと話せればいいな...


「あっ!聞き忘れてた!」

「おーい!ヒロー!」


 ん?何を聞き忘れてたんだ?


「お前ってさー!好きな人できたんかー?」


 ーーーー

 (ニコッ)


「あー!走って逃げやがった!」

「おーい!まだ答えてもらってないんだけどー!」


 なんで戸坂が知ってるんだ!?

 いや、気づいたのか。でも何で気付いたんだ!バレないように気をつかっていたのに!

 あー恥ずかしい恥ずかしい!


      ーーーーー

 

 今日は心臓に悪い1日だった

 なんなのだろう、この胸の高鳴りは

 今走っているからか?...違う

 彼女と話すことができたからか?...違う


 たぶん。明日に、未来に期待してるからだ

 初めての恋だ。突然視界は拓け、いつもの日常が"非日常"に見えてくる。


 さぁ...

  明日はどんな日常が待っているのだろう

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