第2話

 シオンの父アレクセイ・マグダエルの言葉が理解出来ず、アレクセイや3人の兄に連れて行かれ、辿り着いた場所はクーデリカの実家であるフォンティーヌ公爵家の屋敷があった場所だった。

 だが、そこにはシオンが何回か見た事がある豪奢な屋敷は存在しなかった。美しかった薔薇が咲き誇る庭園も、今は薔薇一輪もなく、ただただ広い草原がそこにはあった。そして、その草原に小さな墓が一つ……


『クレイグ・フォンティーヌ

リリアンナ・フォンティーヌ

クーデリカ・フォンティーヌ

           ここに眠る』


  墓に刻まれたその名前を見てシオンは愕然とし、膝から崩れ落ちた。

 そこに刻まれた名前は、親友であるクーデリカ。本来である王太子妃となって姓はアルフォンスをいただいてるはずが、前の姓に戻されて刻まれていた。

 更に、クーデリカの親友だからと自分みたいな者すら娘のように可愛がってくれたクーデリカの父クレイグ。銀狼族の獣人でありながら、厳しくも優しく貴族や淑女のマナーをシオンに教えてくれた、クーデリカの母リリアンナ。とても公爵家の墓とは思えない小さな墓にシオンは拳を強く握りしめる。


「……何故……何故……こんな……」


シオンの嘆きと怒りのこもった言葉に何も言えなくなるシオンの兄達。だから、家長であるアレクセイがシオンの問いに答えた。


「全てはあの聖女様が現れた事から始まった」




 そもそも、このアルフォンス王国の王太子であるエルリック・アルフォンスと、クーデリカは仲が悪くはなかった。いや、むしろ2人は本当に仲睦まじく、クーデリカが例え獣人であっても、エルリックはクーデリカを溺愛しているのは周囲の目から見ても明らかであった。

 しかし、2年前に神託に選ばし聖女が現れた事から全てが変わってしまった。聖女は、他の者達がよく使う魔法とは異なる「聖属性」の魔法が使え、「聖属性」の魔法はあらゆる邪気を払い、魔物を寄せつけなくさせ、更には「光属性」の治癒魔法よりも強力な治癒であらゆる者を癒し、その聖なるオーラは国を豊かに繁栄させる尊き存在であるとされている。

 そんな聖女が現れたのは、2年前のある日……アルフォンス王国協会から神託がおりた。その神託によれば、アルフォンス王国の平民街に住む平民の15歳の少女が聖女の力を覚醒するというものだった。

 なので、教会の者達は王国の騎士団とも連携し、該当する少女達を集めて調べた。その方法はアルフォンス王国で一般的な属性魔法を調べる水晶に触れる事だった。属性は基本として火・風・水・地・光の5つの属性と、聖女が持つ「聖属性」という特殊な属性がある。だが、基本は1人1属性の魔法しか使えない。2属性や3属性も使える者は、聖女並に珍しい存在である。

 そして、その人がどんな属性を持つか調べられる水晶があり、触れるとその属性の色の光を放つ。例えば、火属性なら赤く光り輝く。そして、「聖属性」だと無色透明ながら眩い光を放つとされている。が、実際そのように光った者を見た者がいないので本当かどうかは分からないのだが……


しかし、それは本当に起きた。1人の少女が水晶に触れた瞬間、水晶は何色にも光らずただただ眩いばかりの光を放ち辺り一面を光で照らした。その後、光を放ち続けた水晶がパリンと音を立てて割れた。周りも少女も呆然と立ち尽くしていたが、すぐに教会長が声を大にして宣言した。


「今ここに!神託により選ばれし聖女が現れた!!」


教会長の言葉にその場にいた者達が皆歓喜の雄叫びを上げた後、1人の少女に平伏するように膝をついた。


 こうして、アルフォンス王国に1人の聖女が誕生した。

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