合コン?当日(一華の場合)〈2〉

 駅に着くと、人混みを押しのけるように早足で広場へ。

 当然、渉くんたちの姿はない。


(お昼はこの辺りで食べてから、遊びに行くだろうから……)


 ファミレスへ足を伸ばす。

 ここなら繁華街にも近いし。


 店に入り、店員さんにカウンター席に案内して貰う。

 注文をすると、人でごった返す店内をそれとなく伺いながら、お手洗いへ行くフリをして、店内をチェックする。


(いた!)


 ボックス席だ。


(結構、盛り上がってるみたい)


 ちらっと見ると、ショートの子もポニーテールの子も可愛い。

 トイレに入り、何も出せずに出る。


(渉くん、結構押されてるかも)


 ショートの子が積極的に渉に質問している。

 渉は答えつつ、ポニーテールの子にも話を振っていた。


(うんうん。

ちゃんとコミュニケーションが取れてるみたいで感心ね)


 そうして席に戻った。



 私が食事を終えてしばらくして、渉くんたちがファミレスを出ていく。

 並びは、綺麗に男性陣と女性陣と別れている。

 それを見て、少しほっとしている自分に驚いてしまう。


(やっぱり私は渉くんのことが好きなんだ)


 そんな当たり前なことを思う。

 渉くんの背中を見ながら、私もお会計をして、四人の後を追いかける。


(今の私、本当にヤバイ人ね……)


 休日でカップルや友達同士で賑わう中、一人で歩いている自分をショーウィンドウで見てつくづく思う。


(これじゃまるで渉くんを信用してないみたい)


 と思いながら、今日一日渉くんが帰ってくるまで家にいたら、ずっと悶々するだろうことも分かりきっている。

 これは単なる私の我がままだ。

 気になってしまうのだから、しょうがない。


 と、歩き出そうとしたが、渉くんがこちらを見ていた。


「っ!」


 本当に驚くと人間声が出ないらしく、私は反射的に慌てて路地へ飛び込んでいた。

 胸を押さえると、馬鹿みたいに鼓動が高鳴っている。


(ばれたり、してないよね?)


 もし尾行がバレてしまったら、恥ずかし過ぎる。


(っていうか、気持ち悪いって思われちゃうかも!)


 こっそりと角から通りを窺うが、渉くんの姿は人混みに消えてしまって見えない。

 ここで尾行を切り上げるかどうか迷ったけれど、ここまで来たら最後まで行くしかない。

 仮に見つかってしまったら、たまたま買い物に来た――と強引に切り抜けよう。

 そう心に決め、人混みを掻き分ける。

 しかし路地に飛び込んだのが不味かったのか、渉くんたちの姿は見えなかった。


(ゲームセンター、カラオケ……。

さすがに買い物って雰囲気ではないかな。

相手の子たちとは初めて会うわけだし……)


 手近にあったカラオケへ入ると、キョロキョロと辺りを見回しながら、渉くんたちを探す。


(ここにはいないのかな……)


 この混雑具合だ。

 渉くんを探すのはかなり骨が折れるかも――そう思いかけて、角から廊下を見た。


 トイレ前にいる渉くんを見つけた。


 見つけたはいいが、ここで何をすればいいのかと考えて、ケータイを手にしてメッセージを送る


 ――うまくやってるー?


 すぐに渉くんがはっとしてケータイを見る。

 少し口元が緩んでいる。

 それだけで、嬉しかった。

 さらにメッセージを送ろうとしたその時。


 渉くんと一緒に来ていたショートカットの女の子が、渉くんの腕を馴れ馴れしく掴んだのだ。


「っ!」


 思わず足を一歩踏み込んでから、はっとした。

 こんなところで出ていったら、渉くんをパニックにさせるだけだし、面倒事に巻き込んでしまう――そう直感的に思った。

 そそくさとカラオケ店を出ると、向かいにあったコーヒーショップに入って、渉くんが出てくるまで時間を潰すことにした。


 二階席の窓際の席に陣取りつつ、カラオケ店を見張る。


(うーん……。私、何してるんだろ……)


 一人で大騒ぎしているようだったが、しょうがない。

 というか、さっきの子は人の恋人に馴れ馴れしく何をしているのか。

 いや、そもそも恋人がいることは内緒にしているのだけれど。

 もどかしすぎる……。


(まさか誘惑? 渉くんがそんな馬鹿なことでコロッといくわけはないにせよ……。

要注意ねっ)


 さっきの子の顔を、しっかり頭に刻み込んだ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る