合コン?当日〈6〉

 すでに日が落ちても、繁華街は眩しいくらい明るく賑やかだった。


「こうして二人きりでいるのは、久しぶりね。

いつも一つ屋根の下で一緒にいるのに、その時は全然違う感じ」

「忙しないのもあると思います。

周りの目も気にしてて……。

でもここなら、そういうのもないですし」


 カップルの姿のどうしても目に入った。

 これも先輩といるからだろうか。


「やらしー。

ニヤニヤして、なーに考えてるのかなー?」

「な、何も考えてませんよ!」

「そんな動揺する姿を、昼間も見せたりしてない?」

「してない、と思います……」

「――ね。手、つなごっか」

「あ……」

「周りの人も手、繋いでるし」

「……はい」

「私から繋ぐ? それとも……繋いでくれる?」

「繋ぎますっ」


 しかし、なかなか先輩の顔を見られない。

 真っ正面を見たまま、探るように手を繋ぐ。


「っ!」


 すべすべした先輩のやわらかな手の感触、そして温もりを感じる。

 完全に変態みたいな感覚になってしまうけど、心臓が痛いくらい高鳴っていた。


「渉君」

「は、はい!?」

「私たち今、すっごく恋人らしいことしてるってよね」

「……はぃ」


 頬も耳も熱い。

 春の夜は、それなりに冷えるはずなのに。


「渉君、やっぱり男の人なんだよね。

手がすごく大きいっ。

こんな大きな手で、あんなに繊細な絵を描いてるのね」

「先輩の手は、すごく小さいですね……」


 今、先輩の手を繋いでいる。

 どうしようもないくらい嬉しかった。


「そうよ。私、女の子だから」

「はい……」

「――さ、渉君! あそこに行こっ!」

「先輩!?」」


 いきなり手を引かれて向かったのは、ディスカウントショップのアクセサリー売り場。


「こういうところに来たことある?」

「ないです。だから、新鮮です」

「私に似合いそうなアクセサリー探してくれる?」

「任せて下さいっ!」


 ドキドキしながら、並べられている品々を眺める。


「先輩はどんなものが、好みなんですか?」

「渉くんが選んでくれたものなら、何でも嬉しいから」


 先輩がアクセサリーをつけているのは、あまり見たことがなかった。

 いや、してたのかもしれないけれど、先輩の顔しか見てなかったから、他のことをあまり覚えていない。


(変なものを選んだら、ダサい奴って思われる)


 自分のことがセンスがあるとは思っていないけれど、それでも喜んで欲しい。

 先輩なら何を選んでも喜んではくれるだろうけれど、できれば本心から喜んでもらいたい。


 周りを見ると、彼氏が彼女に選んであげたり、その逆があったり、鏡を一緒に覗き込んだり――そんなやりとりがちらほらあった。


「このイヤリングはどうですか?」


 手にしたイヤリングは星の形をしている。


「じゃ、付けてみるね」


 手近にあった鏡を前に、先輩が耳にイヤリングを付けた。


「どう?」


 振り返ると、イヤリングが揺れる。

 まるで星が揺れているように、照明を反射してキラキラと光っていた。


「すごく可愛いです!

先輩の髪の色とも、星の色がよく似合ってて」

「ふふ。ありがと。

「イヤリングはあんまりしたことがないから、新鮮。

って言っても、つけたことがあるものなんて、親戚の結婚式の時にネックレスをつけたくらいなんだけど」

「なら、これなんかどうです?」


 ネックレスを取る。

 ピンクゴールドで、四つ葉のクローバーがついている。


「あ、可愛い!」

「先輩がつけたら、もっと映えると思いますっ」

「それじゃ、つけて?」

「え、あ……?」

「折角なんだから。お願い」

「わ、分かりました」


 先輩はつけやすいように、髪をかきあげた。

 白い首筋がのぞく。


「大丈夫? つけられそう?」


 鏡に映る先輩の目は笑っていた。


(からかわれてる……!)


 しかしこんな他愛ないやりとりも、嬉しかった。


「失礼します」


 悪戦苦闘の末にネックレスの留め金を外すと、鏡を見ながら先輩の首に当てる。

 そして留め金をする。


「どうですか?」

「可愛いっ」


 先輩はクローバーをいじりながら、嬉しそうだった。


「このネックレスがいいかも。

やっぱり渉君に選んでもらって良かった。

お会計してくるね」

「待って下さい。ここは、ぼくが払いますから」

「いいの。これくらい出すから。

いいのを選んでもらえたんだし」

「払わせて下さいっ

お願いしますっ。

あ、あの……初デートの記念、っていうことで……」


 先輩は「う、うん」と頷いてくれる。


「分かった。

あなたの気持ち、受け取らせてもらうわね。

ありがと」

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