合コン?当日〈4〉

 食事を終えて、カラオケに行こうと繁華街に入っていく、その途中。

 自然と男組と女組とに別れて、歩く格好になる。


 幹児に肘でつつかれた。


「何?」

「どうだ、郁美ちゃんは」

「どうって、何?」

「可愛いとか何とかあるだろ」

「合コンじゃないんだろ」

「でも、あの子、モデル話を振られた時、悪くなさそうな顔だったろ?」

「モデルを引き受けることと、恋愛とかは無関係――」


 と、人混みの中、


(あ、あれ? 今のは?)


 先輩を見たような気がして、思わず足を止めてしまう。

 しかし先輩と思ったような後ろ姿は、あっという間に人混みの中に消える。


(……気のせいか?

まあ、そりゃそうだよね。本当に付いてくる訳ないし)


「おい、何やってんだ」

「何でも無い」


 幹児と肩を並べて、歩き出した。



 カラオケに到着する。

 受付で店員に指示された部屋番号を覚える。


「あ、ぼく、ちょっとトイレ」

「ああ、分かった。

部屋忘れた、メールしろよ」

「忘れないよ」


 幹児に言って、そそくさとトイレへ。


(考えてみれば、カラオケなんて久しぶりだな)


 中学生の卒業式の後に、友達と行ったきり。

 そんなことを考えながらトイレを済まして、廊下に出る。

 何気なくケータイを見ると、メッセージがあった。

 先輩からだった。


 ――うまくやってるー?

 ――はい、やれてると思います

 ――浮気したくなった?

 ――なりません!

 ――ふふ。冗談冗談。

   帰りは遅くなりそう?

   もしかして帰れなさそう?

 ――もちろん帰ります

   夕飯はこっちで食べていくと思いますけど

 ――りょうかーい

   頑張って!


(まったく、先輩ってばからかうのが好きなんだから)


 口元が緩んだ。


「渉君」

「っ!」


 思わず声が出そうになった。

 倉山さんだった。


「ふふー。

随分びっくりしてるねー。

あ、もしかして彼女から?」

「まさか!

友達ですよ。

彼女はいませんし」

「ふうん。

ただの友達相手にしてはずいぶん、嬉しそうだったけど、まあいっか」

「そ、それよりも倉山さん、どうしたの?

幹児たちは?」

「今は部屋よ」

「……えっと、倉山さんはどうして?」

「もう。麻里で良いって」

「ま、麻里さん」

「そうそう」

「で、ぼくに何か?」

「幹児のことでちょっと聞きたいことがあって」

「幹児?」

「あいつ、彼女いるの?」

「さあ。

ぼくはそういうものに疎くって……。

いないんじゃなですか?」


 いくら幹児の中学時代の知り合いとはいえ、べらべらと話すのは躊躇われたのだ。


「ふうん」

「さ、部屋に行き……わっ!」


 腕を掴まれた。


「私、幹児と付き合ってたんだよね、中学時代」

「は、はあ……。

それじゃ幹児に直接聞いたほうが、いいと思います」

「元彼に彼女が出来たって聞いて、どんな顔をすればいいのよー。

もー。郁美にオススメしてあげないよ?」

「あはは。オススメとかは大丈夫ですから」

「え、郁美のこと嫌いなの?」

「そうじゃないです。

とにかく幹児のことは幹児に聞いて下さい。

それじゃ」


 回れ右をして部屋へ一直線に向かう。


「遅かったな」

「う、うん。ちょっと」

「でっかい方か?」

「感じって、本当にばかだな」

「怒るなよー。

で、麻里と会わなかったか?」

「ううん、会ってないけど」

「そっか。ま、歌おうぜっ」


 それからすぐに倉山さんは戻って来た。

 しかしぼくとは一度も目を合わさなかった。

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