合コン?当日〈3〉

 注文を終えると、向かいに座っていた倉山さんと佐々木さんが、興味津々にぼくを見る。


 最初に口を開いたのは倉山さん。


「で、渉君は、どうしてこいつと知り合ったの?」

「どうして?」

「ほら、こいつゴツいでしょ?

中学時代もクラスメートから怖がられて、遠巻きにされてたの。

見た目で悪いんだけど、渉君はこいつと気が合いそうにないし」

「おい、失礼なことをさらっと言うなって」

「あはは。別にそんな特別なことはないよ。

ぼくの絵を好きって言ってくれて、それで……」

「へえ、絵を描くんだ。すごいね!」

「そうなんだよ、こいつはすげー絵を描くんだ」

「将来は芸術家になるの!?」

「そこまではまだ考えてない、かな


(倉山さん、すごい勢いだな)


 圧倒されていると、


「おーい。お前ばっかしゃべってんじゃねーよ。

お前の後輩、置物になっちまってるぞ」


 幹児がツッコミを入れる。


「あ、ごめんね。

――郁美、自己紹介」

「あ、はいっ。

前橋高校一年の佐々木郁美ですっ。

女子バスケット部で、今日は先輩に誘われて来ました……」


 佐々木さんは身体を縮こませるように言う。


「硬いなぁ、郁美ちゃん。

もっとリラックスしないと、今日一日保たないぜ?」

「あ、はいっ。すみません……」

「バスケは長いの?」

「あ、はい。小学校の時からしてます」

「郁美は、うちの期待の新人なんだよねー」


 倉山さんに言われて、佐々木はますます小さくなった。


「ぼくは運動がいまいちだから、素直にすごいと思う」

「い、いえ。そんな……。

褒められるようなことじゃありません、から。

小さな頃からやってるだけで……」

「でも期待の新人って言うくらいなんだから、強いんでしょ?

前橋はスポーツ強豪校だし」

「……そうですね。

中学の時は全国大会に行きました。

あ、でもそれはあくまで中学での話ですし、高校では倉山先輩を初めとして先輩型の薫陶を受けて……」


 さすがは運動部という真面目さで、佐々木さんは言った。


「麻里、いびるなよー?」

「しないわよっ」


「ところで、倉山さんと幹児は、二人でよく会ってるの?」


「今日はたまたま」

「そーそー。暇だったから遊ばないって誘って。

こいつと二人であってもしょうがないから、誰か紹介してってメールして……」

「でも今日とか、部活じゃなかったのか?

こんなところで脂売ってていいのか?」

「問題なし。

今日の練習は午前中だけだったから」


「ところで幹児は、今も部活やってるの?」

 そう言ったのは、倉山さんだ。


「え、幹児って部活やってたの?」

「やってたってほどじゃないさ。幽霊部員みたいなもん」

「またそんな悪ぶっちゃってー。

渉君、こいつ中学の時は陸上の短距離走の繊手で、めっちゃ凄かったんだから」

「そうなんだ。

幹児、どうして今は入ってないの?」

「飽きただけだよ。

――もういいだろ、その話は。お前の話をしようぜ」

「ぼくの?」

「郁美ちゃん、何でも聞いてくれ」

「あ、はいっ……。

えっと……どんな絵を描かれるんですか?」

「風景画が中心かな。

学校とか商店街とか、山なんかも」

「人は描いたりはしないんですか?」

「人は結構難しくって……。

挑戦してるんだけど、なかなかうまくいかなくって」

「郁美ちゃん、モデルになったら?」

「いえいえ!

私はそんな……。モデルとか畏れ多いですから……!」

「ばか幹児。

純朴な一年をからかわないでよ」

「からかってなんてねーよ。

なあ、渉。

郁美ちゃん、モデルとしていいよなぁ」

「あ、うん。

もちろん。

佐々木さんさえ良ければ、今度……」


 佐々木さんは恥ずかしがって、頬を赤らめてしまうのだった。

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