第5話 デート準備!?〈1〉
先輩の部屋の前まで行き、ノックをしようとして気付く。
(そういえば、先輩の部屋に行くのって初めてだよな……)
それを認識すると、駆け足の鼓動を意識する。
(先輩だってぼくの部屋に来たんだから。
ぼくが先輩の部屋に行くのは全然おかしいことじゃない)
そう自分に言い聞かせるようにして、意を決してノックした。
トン、トン。
「はい」
先輩が出て来た。
「渉くん。どうしたの?」
先輩は少しびっくりしていた。
「ちょっとご相談が」
「いいよ。どうぞ」
「し、失礼します……」
(いい匂い……)
思わずそんなことを考えるのを自覚し、邪な考えを振り払う。
(変なことを考えるな!)
部屋に入ると、部屋はパステル調でまとめられていた。
飾り棚には写真立てがいくつかあった。
どれも陽介さんと双葉ちゃんと撮ったものだ。
「お父さんとも仲がいいんですね」
「ふふ。よくびっくりされる。
まあでも、ずっと三人きりの家族だったし。
――それでどうかしたの?」
「あ、はい。
実はさっき幹児から連絡があって……」
かいつまんで話をする。
「――どうですか。
幹児が頼みをしてくるのって珍しいんですけど」
先輩が笑う。
「へえ」
「な、何ですか」
「ううん。
渉くんもやーっぱり、女の子に興味津々なんだなーって思って」
「いや、ち、違います!
……あ、いや、違いません、けど!」
「へえ、違うんだ-」
「だって先輩が好きですから。
じゃなきゃ、告白とか……で、出来ませんっ」
先輩は虚を突かれたみたいに、目を逸らしてしまう。
「先輩?」
「……今の結構、ヤバいかも」
「やばい?」
「うん。結構、ぐっと来た」
先輩は少し頬を染めていた。
「あ……」
妙に恥ずかしくなって、ぼくは俯いてしまう。
先輩が咳払いする。
「えっと、幹児君のことよねっ」
「そ、そうです!
……どう思いますか?」
「それは行きたいけど
私のことがあるから、行けないから許可が欲しいってこと?」
「違います!
これは友人の誘いに乗るっていうだけで。
向こうも、合コンとかじゃないって言ってますし!」
「ふうん」
「じゃあ、断りますっ」
立ち上がろうとするのを、なだめられた。
「待って。
駄目だなんて誰も言ってないでしょ。
友達の頼みなんだから、行ったら?」
「いいんですか?」
「女の子がいることにいちいち目くじらを立てるとでも思ったの?」
「いえ、そんなことありません」
「でもせっかく女の子もいるんだから、お洒落しないと」
「オシャレ、ですか?
いや、その必要はないですよ。ただ遊ぶだけですよ?」
「そうはいかないわ。
だって彼氏が他の子と一緒にいるのよ。
かっこいいって思ってもらいたいじゃない」
「……そんな必要ありますか?」
正直、先輩の言っている言葉の意味が分からなかった。
「そうよ。
だってダサいとか思われたくないでしょ?」
「それは……」
「渉くんだって私が、ダサい女だって思われたくないでしょ?」
「いえ!
先輩でしたらどんな格好をしていても、似合うと思いますので!
「もー。渉くんってば特殊なんだから」
「そ、そうでしょうか……?」
「まあいいわ。
遊びに行くのは日曜日よね。
じゃあ土曜日に買い物に行こ」
「分かりました。
行きましょう!」
「決まりねっ」
「あ、はい」
「デート、楽しみね」
「で、デート……」
「だってそうでしょ。
恋人同士が一緒に出かけるんだから」
「言われてみれば、そうですね」
それを自覚すると、日曜日のことよりもずっと胸がドキドキした。
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