バレる…?〈3〉
帰宅する。
玄関で並んでいるローファーを見る。
この瞬間、もう母と二人暮らしじゃないんだということを、改めて実感する。
自分の部屋に入る。
カバンを机に投げ出し、ベッドに大の字の格好で仰向けに寝転がった。
(幹児のことだけでこんなに疲れるなんて……)
ただ絵の方はまずまず。
後は色を塗っていくだけ、というところまでは進んだ。
うとうとしているところに、ノックがした。
「は、はい?」
「入っていい?」
先輩だった。
「あ、はいっ!」
慌てて身体を起こす。
先輩が入って来る。
「あ、起こしちゃった?」
「え?」
「寝癖、ついてるよ」
「あ、あはは……。
ちょっと横になってました」
「座っていい?」
先輩は、ぼくの隣を指さす。
「もちろんですっ」
「ありがと。
――随分、疲れてるね。部活、大変だった?」
「そういう訳じゃなくって……」
理由を話すと、先輩は笑う。
「幹児くんがいい人で良かったね」
「笑うようなことじゃないと思いますけど」
「これはいいことだと思うよ。
渉くんは、嘘をつく才能はないみたいだし」
「そんな才能いりませんよ」
思わず苦笑いをしてしまう。
「でも今は困ってるでしょ?」
「……せ、先輩ならなんて、いいますか?」
「素直に言えば?」
「親同士が再婚したって、ですか?
そんなこと言ったら、明日には学校中に出回って、いろんな人から毎日先輩の様子を聞かれ続けますよっ」
「大袈裟よ」
「全然違います。みんな話題に飢えてるんですから」
「それは嫌かも」
「双葉ちゃんだって嫌な思いをするでしょうし」
「双葉のことまで考えてくれてるんだ。
ありがとう」
「そ、それはそうですよ。だって家族ですし……」
「まあでもここは待ちの一手かなぁ」
「それで、大丈夫でしょうか」
「でも、渉くんが何かしたら、ややこしくなるばっかりだと思うよ?
そもそも名案が思いつけたとして、幹児君にうまく伝えられる?」
「それは……」
幹児のことだ。
今回みたいに、こっちの焦る顔を散々愉しむに決まっている。
「いえ……」
「それじゃやることは一つ」
「何ですか?」
「黙ってる」
「いいんですか?」
「でも渉くんの説明で、納得したフリはしてくれたんでしょ?
だったら問題ないわ。
他に名案が思いつけば、そっちを考慮してもいいんだけど」
「……ありません」
「じゃあ、変に考えてもしょうがないね。
見る前に飛べって言うでしょ?」
「そうですね。分かりました。
相談にのってもらえて良かったです」
「ふふ。これくらいのこと、おやすいご用よ」
先輩が部屋を出ていくと、すっかり気分は晴れていた。
と、ケータイがメッセージの着信を知らせた。
(先輩かな)
メッセージを見ると、幹児からだった。
(珍しいな
なんだろ…)
「は?」
そのメッセージを見るなり、思わず声が漏れた。
――今週の日曜に合コン入れたから。よろしく!
「何勝手なことを……」
――そんな話、知らないって! いきなりすぎだろ!?
――でもお前、彼女いないだろ? だったら問題ないじゃんか
――いないけど、それとこれとは関係ないから!
今は絵に集中したいって言っただろ
――頼むよ。中学の頃の同級生に、遊ぼうって言われてさ
相手も二人で来るっていうし
あ、ちなみに二人とも女な
――幹児には河上さんがいるだろ!?
合コンとか、まずいだろ!
――俺はただの紹介者だから
バトンは渡してやるからよ笑
――迷惑!
――別に本当に付き合えとか言わないからさ
合コンってのもただの言葉の綾だって
ただ女二人と遊びましょってこと
頼む! 俺を助けると思ってさ!
――別の人を誘えば?
どうしてぼくなのさ
――お前なら、女を優しく扱いそうだろ
頼むー!
(ぼくが気にしすぎなのか……?)
そんなことを考えていると、gifが送られてくる。
デフォルメされたカモノハシが汗を飛ばしながら、土下座している。
考えてみれば、幹児から頼み事は初めてだった。
――ちょっと考えてみる
――サンキュ!
できれば明日中に頼む
――了解
(先輩に相談しよう)
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