バレる…?〈2〉

 放課後、美術室には行かず、運動場で部活動に励む様子をスケッチしていた。

 とりあえず目に付いたものを何でもスケッチしようと思ったのだ。

 いつまでも白紙とにらめっこしていても始まらない。

 どういう風に色を塗るか考えながら、鉛筆を動かす。


「――おい、渉」


 振り返ると、幹児がそこにいた。


「ニヤニヤして、どうかした?」


 幹児は隣に座る。


「お前、うちの会長とどんな関係なんだよ」


(っ!)


 動揺したことを悟られまいと、懸命に普通を装う。


「関係ってどういうこと?」

「始業式の日、会長と知らない子とメシ食ってたろ。お前がバイトしてるファミレスで。

見たんだよ」

「河上さんも?」

「ああ。っていうか、最初に気付いたのがゆうなんだよ」

「そっか」

「お前、いつから先輩と仲良くなったんだ?

っていうか、あのもう一人の子って誰?」

「あの子は先輩の妹の双葉ちゃんだよ」

「双葉ちゃん。ねー」

「何ニヤニヤしてんのさ」

「お前、普通の女子は名字でさん付けのくせに、どうして双葉って子は、ちゃん付けなんだよ」

「たまたまだって」

「ま、いいけどよ。

で、会長とは何でだ?」

「ぼくの絵を好きって言ってくれて、それで、偶然先輩と妹さんが一緒にいる所に通りかかって、お昼でもどうかって言われたんだよ」

「なんでお前を誘うんだよ」

「面識はあったし……。それに、妹さんが新入生だったし。

学校のことを教えてあげてって言われたんだ。

それだけ。

やましいところはないよ」

「へぇー」

「何だよ」

「ま、お前が何かを隠してるってことは分かった」

「何も隠して……」

「まあまあ、いいさ。

俺は野次馬じゃねえからな。今の嘘に付き合ってやるよ」

「嘘じゃないからっ」

「一瞬お前が会長と付き合ってるのかとも思ったけどさ」


 心臓が激しく揺れるのを意識した。


「そんなことあるわけねえし、まあ、第一デートに妹連れて行くなんてありえねえしな」

「ど、どうして、ぼくと会長が付き合うのがあるわけないんだよ」


 幹児がびっくりした顔をする。

「狙ってるのか?」


「ね、狙ってないっ。

けどぼくだって男なんだから、無理ってことはないだろってこと」

「怒るなって。

お前には芽が無いって言ってんじゃなくって、あの学校随一の優等生って、色恋に興味があるとは思えないって話。

浮いた話もないし、な」

「あ、ああ……そういうこと」

「もし本当にお前が狙ってるんならさ、相談しろよ。手伝ってやる」

「別にいいから」

「そうか。でも彼女いないだろ」

「……いないけど」

「何だよ、今の間。いるのかっ?」

「いない。彼女持ちにそんなこと聞かれて、屈辱を味わっただけ」

「遠慮するなよ。ゆうの友達とか……」

「ありがと。

でも今は彼女とかじゃなくって、絵に集中したいから」

「ま、それもそうか。

ま、当分はできない方がいいかもな」

「なんで」

「お前に彼女なんて出来たら、そいつの絵ばっかりになりそうだし」

「な、ならないよっ」

「そうなのか?

でも芸術家って恋人とか愛人をテーマにして何か作るだろ」

「そういうのはよく知らないけど……」


(幹児、変に鋭いなぁ)


 下手なことを言うと藪蛇になりかねないから、スケッチをする。


「ま、頑張れよ」

「うん」


 幹児の気配が離れていくのに、ほっと胸を撫で下ろした。

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