新学期のはじまり〈5〉

「お待たせしました!」


 校門にいる先輩と双葉ちゃんの元へ、駆けつけた。


「美術室の空気は堪能した?」


 先輩は微笑みまじりに言った。

 ぼくは照れ気味に頷く。


「あ、は、はい。出来ました。

お待たせしましてすみません」

「渉くん。今日はこのままファミレスに寄りましょう。

お父さんたちには連絡しておいたから」

「分かりました」


(そういうことだったんだ……)


 実はここに来る前、母さんから「一華さんと双葉さんに粗相がないように」というメッセージを受け取っていたのだ。


 そういう訳で、ぼくらは駅前にある

 同じことを考えている学生は多かったのか、店内には同じ制服のグループの姿が、ちらほらあった。


 僕らは奥のボックス席に通された。


 壁側に座った先輩と双葉ちゃんと向かい会う。


「双葉。ここ、渉くんがバイトしてるのよ」

「そうなんですね。……あなたは働かなくていいんですか?」

「シフトは夕方から夜だから」

「ふうん」

「もう、双葉ったら。どうしてそんな嫌味な聞き方するの?」

「先輩、いいんです。

 ――それより、何を頼みますか?」

「私はハンバーグステーキセットに、トッピングにエビフライ」


(先輩、相変わらずよく食べるなぁ)


「双葉はどうする?」

「エビドリア」

「渉くんは?」

「僕もハンバーグステーキにします」

「トッピングは?」

「あ、じゃあ、ぼくもエビフライを頂きます」

「そうだよね。育ち盛りなんだかたくさん食べなきゃ。

ライスも大盛りにしてね」

「あ、はい……」

「お姉ちゃん。

そんだけいっつも食べてるのに、よく太らないよねぇ……。

不公平っ」


 呆れたように双葉ちゃんが、ぼやく。


「双葉だって食べればいいじゃん。

その分、運動すればいいのよ」

「無理ぃ」


 そんな姉妹の微笑ましいやりとりに笑うと、双葉ははっとしたように笑顔を引っ込めてしまう。


(相当、警戒されてる……)


「そうだ。双葉。これ」


 空気を察してくれた先輩が、双葉ちゃんにケータイを見せる。

 そこに映し出されているのは、ぼくの桜の絵だ。


「双葉。これ、渉くんが描いたんだよ。すごいでしょ?」

「……へえ、綺麗」

「でしょ?

これは写真だけど、実物を見たらもっとすごいんだから」

「先輩、そんなに褒められるようなものじゃないですから。

あははは……」


 双葉はじーっと絵を見てくれている。


(今なら多少は距離を縮められるかも)


「そ、そうだ。双葉ちゃん。

学校はどうだった?」

「……普通です」


(そんなことなかった……)


「双葉。普通、じゃないでしょ。

友達が出来るかドキドキしてたって言ってたじゃない」

「お姉ちゃん!

言わないでって言ったじゃない!」

「恥ずかしがることないでしょ?

初めて学校に行く時は、誰だって不安なんだから。

渉くんに相談できるでしょ?」

「別に悩んでないしっ。

友達くらい、すぐに出来るから」

「もう、双葉ったら。――渉くんはどう? 友達は出来た?」

「あはは。そうですね、出来ました。

一年の頃からの知り合いも同じクラスでしたから」

「そっか。良かったね」

「先輩はどうです?」

「ふふ。私も大丈夫。

――ね、双葉。私たち、頼りになるでしょ?」


「もう。お姉ちゃん、しつこいっ」

 双葉ちゃんはすっかり拗ねてしまったようだ。


 どうフォローすればいいのか迷っているうちに、食事が運ばれてきた。


「さ、みんな、食べましょっ」

 先輩は嬉々として言った。

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