新学期のはじまり〈3〉

 二年二組の教室に入ると、席はだいたい五割くらい埋まっていた。

 教室のそこかしこに幾つかのグループが出来て、賑わっている。


「よぉ! 渉じゃんっ!」

幹児かんじ。幹児もこのクラス?」

「そうそう。一年間よろしくな」

「こっちこそよろしく」


 夏目幹児なつめかんじ

 身長は百八十センチ前後で、黒髪短髪、目つきが悪い(これは本人も気にしているらしい)。

 一年の頃は別のクラスだったけれど、ぼくが一年の時に美術部の活動で風景の写生をしている時に、偶然出会ったのだ。


 ――お前、絵がうまいんだな。もっと見せてくれよ。


 幹児に言われるがままに見せると、これからも絵を見せてくれと言われた。

 他にもあの風景を、とか、こういうのを描いてくれと頼まれたり。

 そういうこともあって、違うクラスではあったものの、親しく友だち付き合いをしていた。


「最近、どんな絵描いてんだ?」

「それがバイトやら何やらで忙しくって、まだ新しいのは描けてないんだ」

「そっかぁ……。ま、完成したら見せてくれよ」

「分かった。――幹児、春休みどうだった?」

「こっちもバイト漬け。あとデート。

じゃな」

「ああうん」


 幹児は、同じクラスの女子の方へ向かっていく。

 彼女は幹児の彼女の、河上かわかみゆう。

 他の女子と比べても小柄な河上さんは、真っ黒な髪を短めのポニーテールに結っている。

 幹児と並ぶと、その小柄具合が余計に目立つ。

 一年の時は同じクラスで、よく幹児と一緒にいる姿も見ていたし、幹児からも試しに彼女の姿を書いてみてくれと言われた時に、彼女だと教えられたのだ。

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