第3話 新学期のはじまり〈1〉

 ケータイの目覚ましで、起きた。

 手探りでケータイ取り、目覚ましを止める。


(もう、朝かぁ……)


 欠伸まじりに、カーテンごしに部屋に入ってくる日射しに目を細めた。

 ただ、なかなか布団から抜け出せない。

 

(休みグセがつきすぎちゃったなぁ)


 その時、手にしていたケータイが鳴る。

 先輩からのメッセージだった。


 ――おはよっ。目覚ましの音、聞こえたよ笑


 寝ぼけ眼を擦りながら、おはようございます、と返信をする。


 ――打ち間違い。寝ぼけてる?

 ――みたいです

 ――二度寝はダメだからね?

 ――了解です!


「よーし!」

 声を上げて勢いをつけて身体を起こす。

 

 先輩のお陰で、目はすっかり冴えていた。

 寝巻代わりのジャージを脱ぎ、制服に袖を通す。


 いつもは正直、身の回りのことに頓着していないけれど、朝から先輩と顔を合わせるのだ。

 鏡を見ながら、最低限の身支度を調え、カバンを手に、部屋を出た。


 その時、別の部屋の扉が開いた。


(先輩!)


「お、おはようございますっ」

「おはよう」


 セーラー服に袖を通した先輩の姿を目の当たりにするだけで、頬が熱くなった。


「二度寝しなかったわね。感心感心」


 頭を優しく撫でられた。

 

「っ!」


 不意打ちすぎて、びくっとしてしまう。


「せ、先輩……!」

「そんなびっくりしなくてもいいじゃない」

「と、突然でしたから……」

「突然じゃなきゃ面白くないでしょ?」


 先輩はいたずらっぽく笑った。

 ぼくはどうしようもなく、モゴモゴと口ごもるしかない。


「――今日の予定は? 今日は始業式くらいでしょ?

一緒に帰れるのかな、と思って」

「大丈夫です! 是非帰りましょう!」

「ふふ。元気で安心した」

「あ、すいません。うるさくって……」

「そんなことないよ」

「わっ!」

 顔を真っ赤にしながら、手を引っ張られるがまま階段を下りた。



「三人とも、制服がよく似合ってるなあ!」


 陽介さんが僕ら三人を前に。嬉しそうに言いながら、デジカメでその様子を入念に撮影する。


「そうかあ。渉君は詰め襟かぁっ! 懐かしいなあ!

私も学制時代は詰め襟だったんだよー!」


 先輩が笑う。


「ちょっとお父さん。そんなにベタベタ触ったら迷惑でしょ」

「ああっ……渉君、すまないね」

「いえ。だ、大丈夫です……」

「――ねえ、やっぱりこれちょっと大きいんだけどぉっ」


 そう不機嫌そうに言うのは、双葉ちゃん。

 先輩が取りなすように、袖を引っ張った。


「双葉、そんなこと言ってもしょうがないでしょ?

大きめのサイズを買ってるんだから。

これから双葉だって成長して……」

「お姉ちゃんみたいにおっぱい、大きくならないもんっ」


「双葉!?」

「おい、何を言ってるんだ!?」


 先輩と同時に声を上げたのは、陽介さんだ。

 ぼくは何も聞いていないフリをするので、手一杯。

 そこへ来て、


「さ、三人とも。そろそろ行かなきゃ駄目でしょ?

遅刻しちゃうわよ」


 気まずい雰囲気が流れる中、母さんの言葉が救いだった。

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