一つ屋根の下(一華の場合)〈3〉
(もう寝なきゃいけない時間だなんて……。
今日はいつもよりもずっと一日が過ぎるのが、早かったなぁ)
私はそんなことを考えながら、双葉の部屋の扉をノックした。
どうにか普通の態度で、渉くんたちに接してくれてはいたが、やっぱり心配だった。
「双葉? 起きてる?」
すぐに「起きてるー」と声が返ってきた。
中に入ると、パジャマ姿の双葉はベッドに腰掛けた格好で、ケータイをいじっていた。
私は隣にそっと座る。
「今日はどうだった?」
「すっごく疲れちゃったぁー」
双葉はぎゅっと、抱きついてくる。
よしよしと頭を撫でると、まるで犬がじゃれるみたいに、ますます甘えてきた。
「でもやっぱり、私、あの人たちとは仲良くなれないと思う……」
「まあいきなりは難しいよね」
「――お姉ちゃん、無防備すぎっ」
双葉が不満そうに、見てくる。
「え?」
「あの渉って人、いやらしい目でお姉ちゃんのこと見てたからっ」
「そんなわけ……」
「ううん。絶対! すっごくジロジロ見てたよ?」
「ふふ」
「笑ってる場合じゃないから!? ねえ、すぐパパに……」
「大丈夫。それはただの思い違いだから」
(双葉がここまで、渉くんのことを警戒してるなんて……)
務めて笑顔を装いつつ、双葉のさらさらの髪を撫でた。
ちょっと茶色がかった髪は、お母さん譲りだ。
ただ、双葉の場合、くせっ毛のせいで、お母さんみたいに長くは伸ばせない。
「気のせいだから。私たちもそうだけど、渉くんだって緊張してるんだから。
私たちだって突然の再婚にびっくりしてるだけないの。
渉くんだって……」
「渉くんとか、もうそんな呼び方してるんだ」
「呼び方くらいで怒ることないでしょ?
義理のお兄さんだなんて思う必要はないけど、ちゃんと渉くんのことを知ってから態度は決めないと」
双葉は、私が自分の気持ちと全然違うのを、不満がっている。
双葉はそっと頭を離すと、そのまま倒れるようにベッドに、ごろんと横になった。
唇を不満そうに尖らせていた。
「もう寝るっ」
分かった、と私は立ち上がった。
「明日から学校だからね」
壁には、真新しい制服がかかっている。
私と渉くんが通う、学校の女子の制服はセーラー服だ。
冬は黒を貴重にした生地に、学年ごとに色の違うタイ。
夏はタイの色はそのままに、白いセーラー。
男子の方は冬が詰め襟にスラックス、夏場はワイシャツ。
これと言って特徴がないせいか、生徒からの評判はあまり良くなかった。
「おやすみ」
「……おやすみぃー」
廊下に出て、後ろ手で扉を閉めた。
(あそこまで警戒してたなんて……。
まあでも、渉くんを知れば、きっと印象だって変わるよね?)
一瞬このことを渉くんに伝えようかとも思ったけれど、そのせいでさらに行動がぎこちなくなってしまったら、双葉はますます疑ってしまうかもしれない。
(……とにかく双葉に好印象をいだいてもらうよう、私も協力しなくちゃ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます