一つ屋根の下(一華の場合)〈2〉

「お父さん、準備は出来た? 琴音さんたち、もうすぐいらっしゃるよ」


 双葉と一緒にリビングに入ると、父はリビングをうろうろして落ち着かない様子。


「おお、一華かぁ。いやあ、もう大丈夫だよ」

「だったら落ち着いて座ってたら?」

「分かってるんだが、うん……」

「分かってるんだったら、座って。見てるこっちが落ち着かないから。

初めて迎える時くらい格好よくしたいでしょ?」

「そ、そうだな」


 父はぎこちなく頷くと、ソファーに座った。

 背筋を伸ばして太腿に手を添える姿は、今から面接にでも臨むみたいでおかしかった。


 ただ、私も内心緊張していた。

 落ち着きのない鼓動を聞きながらそれを紛らわせようと、紅茶を淹れる準備を手早く進める。


 紅茶を淹れると、それをテーブルへ持っていく。


 その時、チャイムが鳴った。


 父が跳ね起きるように勢い良く立ち上がると、インターフォンで確認するや、

「来たぞっ!」

 そう勢い込んで告げるや、玄関へ向かっていく。


 双葉は興味なさそうに、紅茶に口を付けていた。


 父のやたらと通る声が玄関の方でして、今度は複数の足音が近づいて来た。

 私は双葉を促して、そろって立ち上がった。


 父に案内され、琴音さんと渉くんが入ってくる。

 渉くんと目が合うと、口元が緩んだ。


 自己紹介を終え、二人の荷物を部屋に置くというところで、私は渉くんの案内を買って出た。


 部屋で二人きりになると、胸の辺りがくすぐったい気持ちになる。

 ここ最近は春休みということもあったり、両親の結婚もあったりで、こうして直接会う機会がなかなか取れなかったのだ。

 アプリでメッセージのやりとりこそ、毎日のようにしているけれど、やっぱり面と向かいあうのとは違う。


 同じ部屋にいて他愛ない会話をしているだけで、嬉しい。


(同じ気持ちを、渉くんも感じてくれていると嬉しいな)


 そんなことを頭の片隅で考えながら、換気の為に窓を開けた。


「あ、桜……」


 渉くんがぽつりと、呟いた。


「綺麗でしょ? 裏のおうちのお庭に立派な桜の古木があってね。

だからここを、渉くんの部屋にしたの」


「ありがとうございますっ! ここの部屋なら、すごくいい絵が描けると思います!」

「そう言ってもらえて良かった。

 ……それじゃそろそろ下に行こう?」

「はいっ」

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