第2話 一つ屋根の下(一華の場合)〈1〉

 ティロン♪

 ケータイがメッセージの着信を知らせる。

 メッセージ画面を見る。

 

 ――一華いちかさん、おはようございます


 関係が変わってもまだ律儀に丁寧な言葉を使う渉が微笑ましくって、思わず口元が緩んだ。


 おはよう、とうさぎが大きく万歳をしているスタンプを送る。

 渉も同じようにスタンプを送ってくる。


 私はメッセージを送る。


 ――いよいよ新学期ね

 ――ですね ドキドキします…

 ――私はワクワクしてる

 ――もちろん ぼくもワクワクしてます!

   でもやっぱり…

 ――心配しないで 私がついてるんだから

   何か困ったことあったら相談して?

 ――はい!


 こうして、何気ない会話を異性とするのは初めて。

 渉から、絵のモデルになって欲しいと声をかけられ、長らく一緒に過ごす時間があった。

 私は渉の絵に見とれた。

 水彩画という淡い世界。

 真っ白なキャンバスがみるみる、別世界に変わっていく。

 水彩画は小中くらいのもの、と実は思い込んでいた考えは、渉の絵を見て砕けた。

 芸術のことは分からないけれど、まるで魔法でも使うみたいに朧気に立ち現れる絵に夢中になった。

 気付けば、一つ年下の渉にも。

 話しかけると、おどおどして恥ずかしそうに答える姿とか、でも絵を描く時に見せる真摯な姿は、同じ人物とは思えないくらいの変わり様だ。


 告白されて、答えを待つ間の渉くんは、必死に下を向くまいとしていた。

 その姿に笑いがこぼれ、自分も同じ気持ちだったのだと答えた。


 ただそんな時に降って湧いたのが、お互いの両親の結婚話だった。

 あれよあれよという間に話は進み、今日、渉くんと渉くんのお母さん――琴美さんが、うちで暮らすことになっている。


 楽しみだけれど、緊張もしている。

 渉くんのお母さんに嫌われないだろうか。


 と、ノックの音がした。


「はい?」

「お姉ちゃん」

「いいわ。入って」


 妹の双葉だった。


「双葉、どうかした?」

「う、うん……」

「緊張してる?」

「まあね……。だって」

「お父さんとも話し合ったでしょ? お父さんが好きになった人なんだよ」

「分かってるけど、今さら再婚とか」

「そんなこと言ったらダメ。今までずっとお父さんは一人で、私たちの面倒を見てくれたでしょ? 仕事が忙しいのに運動会とか文化祭とか、授業参観にだって来てくれた。違う?」

「……違わないけど」

「今さら母親に構って欲しいって年じゃないし。お父さんの決断を尊重しようって決めたでしょ」

「……うん」


 双葉の頭に、そっと手を置いた。


「私もいるし、大丈夫」

「うん。そうだよねっ」


 双葉はぎゅっと抱きついてきた。

 私は双葉を抱きしめ、頭を撫でた。

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