一つ屋根の下(渉の場合)〈4〉

「ふうー」


 思いっきり息を吐き出し、仰向けの格好で自分に部屋のベッドに寝転がった。

 両腕を動かして、シーツのスベスベした感触を楽しむ。


 見馴れない天井。

 小中の修学旅行の時にも宿泊した施設の、自宅とは違う、見馴れない天井を眺めながら、ちょっとした非日常を楽しんでいた。


 でも今回はこれが日常になっていく。

 それも、すぐそばに先輩がいる。

 やっぱりどうしたって意識してしまう。


(いいから、寝ようっ! )


 頭まで布団をかぶり目を閉じていると、ケータイが鳴った。


 見ると、メッセージが入っていた。


 ――もう寝た?


 先輩からだ。

 告白したその日、グループを作ったのだ。

 今まで頻繁に、メッセージのやりとりをしていた。


 ――起きてます!

 ――良かった。明日から学校ね

 ――もしかしてドキドキして眠れませんか?

 ――笑 そうかなぁ そんな感じかな?

   渉くんは?

 ――僕も似た感じです

   明日から学校、面倒だなぁって笑


 と、画像が送られてくる。


 綺麗な桜一面の景色に、『題材探し、手伝うよ?』というメッセージが躍る。

   

 パンダが大きなハートを抱きしめるgifを送ると、先輩も同じものを送り返してくれる。


 そんな他愛ない、数メートル先の部屋にいる先輩とのやりとりに、思わず頬が緩んだ。


 ――そういえば、双葉ちゃんって、ぼくと先輩のこと、知ってるんですか?

 ――知らない。どのタイミングで話そうかって思っているうちに、今の状況みたいになるってなっちゃったから……

 ――妹さんに秘密を作るようなことをしちゃって、すみません

 ――全然大丈夫。そのうち、様子を見て話すから

 ――話す時には言って下さい! ぼくも一緒に行きますから!

 ――ありがと。

   それじゃそろそろ寝よー

   新学期早々遅刻なんて格好つかないしね 


 枕のスタンプが押された。


 ――おやすみなさい


 そうメッセージを送り、ケータイを置いた。

 明日からだって幾らでも話したり、やりとりは出来るのに、もっとしたいという気持ちになってしまう。

 胸のドキドキも収まりそうにないし。


 絵の構図が決まらなかったり、出来に納得出来なかったり、成績が良くなかったり……色々な理由でなかなか眠れないことあったけれど、こんな気持ちを抱くようになったのは先輩と付き合ってからだ。


 それでもどうにか、目を閉じた。

 新学期早々寝坊をして、先輩にだらしない姿は見せられない。

 でも本当に寝られたのはそれから、一時間くらいだった。

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