第66話 揺れる心 一
「あっ、お待たせしました~!」
「いえ、全然待ってないですよ。」
「またまた~!」
年が明けた1月、和紀と恵麻はある所で待ち合わせをしていた。
その場所は…、世界的に有名な洋館の並ぶ、歴史を感じさせる区域である。
「…ってか和紀さんって、歴史が好きだったんですね!」
「あ、はいまあ、でも好きになったのは最近ですけど…。」
和紀が歴史を本格的に好きになったのは、理沙がいなくなった後である。
理沙と付き合っていた頃の和紀は歴史はもちろん好きであったが、それは「戦国時代の武将がかっこいい。」「ヨーロッパがおしゃれ。」といった漠然とした興味で、また高校などで習う歴史の授業の域を出ていなかった。
しかし、理沙がいなくなってから和紀は理沙のいた頃、過去にばかり目を向けるようになっていた。それが転じて、と言っていいのか度を越して、と言っていいのか、和紀は現在の時間よりも過去の時間に興味を持つようになり、それが一応歴史への興味につながった。
『…いや、僕が歴史を好きになった本当の理由はそんなんじゃない。僕は、理沙を失った苦しみを紛らわせたかったんだ。だから今までやってこなかったことをやって、少しでも僕はこの苦しみから解放されたかっただけかもしれない。』
和紀はそうも思う。また、
『でも、理沙がいなくなってから新しいことに興味を持つなんて、いいことなのかな?
それは、『理沙の知らない僕がいる。』ということにならないかな?
それって…理沙への裏切りにならないだろうか?』
「和紀さん…、大丈夫ですか?」
「あ、すみません。何かボーっとしちゃって。」
和紀は少し物思いに耽り、恵麻にそう心配される。
「…まあ、僕は大学では英米文学専攻ですけど、こういった歴史的な建造物を巡るのも好きですね…。」
「分かりました!私歴史はそんなに詳しくないので、今日はいっぱい教えてくださいね!」
そう恵麻が言い、2人の1日が始まった。
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