第67話 揺れる心 二
「へえ~この建物って、江戸時代からあるんですね~!」
建物の説明の表示を見て恵麻がそう言うと、
「そうですね。この洋館は江戸時代に立てられたものです。
江戸時代は日本は鎖国をしていて、ヨーロッパの国ではオランダとしか交易をしていませんでした。」
と和紀が持っている知識を恵麻に話す。
「あ、それ聞いたことあります!
私だって歴史、知ってますよ~!」
「そうですか。僕はまだまだこの時代には詳しくなったんですが…。」
「そうですか?でも私も負けてないですね。
そう、確か『シーベルト』ってオランダ人、江戸時代にいましたよね?」
そう言って恵麻は、人懐っこい笑顔を見せる。
その笑顔はとても可愛らしく、和紀の目に映った。…しかし。
「いや『シーベルト』は放射能が人体に与える影響の単位ですよ。
正しくは『シーボルト』ですね。」
和紀がそう訂正すると、
「…えっ、そうだったっけ?惜しいなあ~!」
恵麻はそう言う。
「あと、ちなみにですがシーボルトは本当はオランダ人ではありません。
シーボルトの生まれは神聖ローマ帝国、今で言う所のドイツです。でも当時の日本は鎖国中だったのでもちろんドイツとの交易はできませんでした。なので…、シーボルトは『オランダ人』と嘘をついて日本に来たという経緯があります。」
「…なるほど…深いですね…。
ってか和紀さん、ちょっと私のことバカにしたでしょ?」
恵麻は和紀の言うことを真剣に聞いていたが、その後でどうやらムキになってしまったようである。
「いえバカには…。」
「嘘だあ~!
決めました!私、絶対に今日和紀さんに歴史の知識で勝ってみせます!」
それを聞いて和紀はおかしくなって、笑う。
「やっぱりバカにしてるじゃないですか~!」
「いやそれは恵麻さんの言い方が…、」
「そうやって笑っていられるのも今のうちですよ!」
やはり恵麻はムキになっているようだ。
『思えば理沙は、こんなにムキになって食ってかかってくることはなかった。
…今まで恵麻さんと会う度に理沙との記憶を思い出してきて、それで勝手に理沙と恵麻さんは似てるって思ってきたけど、やっぱり違う部分もあるんだな。』
そう思うと、そんな恵麻が愛しくなってくる。そして、自分に正直で感情をはっきり表に出す恵麻を、守ってあげたくなる。
和紀は自分自身のそんな感情に、少し驚いていた。
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