第2話合コンで恋人を探したい
「「「カンパーイ」」」
合コン開始の合図。こじゃれたスペインバルで四人ずつ男女が集まる。ビールがなかなかいける。一通りあいさつが終わって席が替わった。みんな思い思いに花を咲かせている時、私に話しかけてくるのはたしか二つ年下の男の子、飯田さん。子犬を彷彿とさせる仕草。
「三好さんってかわいいですよね。女の子らしいっていうか。僕、守ってあげたいと思いました」
ーかわいい、守りたいー優斗からつきあうときに言われた言葉。私は大学生の時からなにも変わっていない。
傷ついているのに笑うとこ、相手の気持ちを考えすぎるとこ。私がかわいいと思われるのは、自分より相手の気持ちを優先するから。飯田さんは、好意からそう言ったのかな。ふとみると、私をほめてくれた飯田さんは、目が笑っていない。子犬のように感じたけど、目の奥に激しく獰猛な雰囲気を感じ取った。離れなきゃ、そう思ったけど、みんな自分のことで手一杯。
「ここを抜け出して二人きりになりたいな。いいでしょ、三好さん」
他の人には助けてもらえない。このままだとどこに連れて行かれるのだろう。
ー怖い
「私は、飯田さんが思っているような女じゃなくて、めんどうなところも多いですよ」
自分から拒絶されそうなことを言ってみても、語尾が小さくなる。私では処理できない、そう思ってもどうにもできない。
うでをつかまれてどんどん恐怖を感じる。振り払えない、力のある男性のたくましさ。そんなとき、
「久しぶりですね、お元気でした? 元気なさそうですね。水でも飲んでくださいよ」
知らない人が水を手渡しながら、肩にうでをかけてきた。普段ならなれなれしいと思うしぐさだけど、なんとなくしっくりくる。話しかけてきた男性が助けてくれるかもしれない。たまっていた息をはいて水をごくごく飲んだ。飯田さんより、筋肉質で力が強そうな、それでいて穏やかな若い男の子。
「彼女のこと知ってるのか? 今取り込み中だから自分の席で飲んでろよ」
「いえいえ、彼女はこう見えて砲丸投げの選手なんですよ。大会でみてました。その辺の男性よりたくましいんですよね」
ささやくように一言。
「無理やりホテルなんて連れ込もうとしたら、投げ飛ばされるかもしれませんよ」
砲丸投げの選手。そう聞いてから飯田さんの手が離れた。今の私とイメージが違ったのかもしれない。砲丸投げなんてやったことないけど。
「怪力女が合コンなんてくるなよ。こっちから願い下げだ」
そうして、飯田さんは私を合コンに誘った先輩のところに行った。口説く相手を変えたのかもしれない。
「よくあんなウソつけますね。いきなり砲丸投げなんて」
「あ、僕は働きながら小説家を目指しているんです。いつもネタ探してて。でもぼくは心から砲丸投げの選手も魅力的だと思いますよ。自分を律していて」
一言、いい人だ、そう思った。やわらかな雰囲気に包まれたい。瞳をのぞくと、暗く光る泉に、星が見えた気がした。
「かばっておいてなんですけど、ぼくもあなたとお酒が飲みたいです。お茶でもいいんですけど。話がしたいと思って」
一人でお酒を飲んでいたら、私と遭遇したそうで、私も一目で彼を気に入っていた。合コンの支払いを多めにすませて、岡田さん、といいう男性とお茶を飲む。
「かわいいと思ったんだけど、男性に迫られて困っている気がして。初対面でこんなこと言ったら嫌われるかな? 自分のことをあまり信じていないんじゃないですか?」
ひんやりした。私が自分自身を好きじゃないことを、この人は知っているのだろうか。私を知ってほしい。知られて嫌いになられるのが怖い。そもそも、心から己を好きになる人なんているのだろうか?
「さっきはありがとうございます。でも本当に初対面でいう言葉じゃないですね。自分を好きな人っているのんでしょうか?」
「ぼくは、ぼくのこと好きですよ。自分のこと甘やかしてあげたいんです」
夜おそい時間に都内のカフェバーでケーキをつつく私たち。きっと周囲からはつきあいたてのカップルとでも思われているのだろう。もし私が自分を甘やかしていたら、このまえの恋愛は変わっていただろうか。彼だけを見つめて、彼の望むことをして…私はそんな生活を送っていた。優斗は、自分がしたいことをやりとげる女性と、恋に落ちているらしい。
私は、まだ変われていない。優斗とまた恋がしたい、そんな思いは、確かにまだあるかもしれない。でも合コンに参加した時点で、彼とは終わりだと考えたはず。
「私も、自分のことを好きになりたいです。パンケーキ食べたり、楽しいことしたりして、甘やかしあげたい」
「じゃあ、僕がお手伝いをしてみてもいいですか?」
声だけ聞くと大人ぶっていたけど、岡田さんは顔が真っ赤だった。
「三好さんのことを、もっと知りたいんです」
私に好意があるのは、ウソじゃなかったんだ。
かわいい、そう思った。大人になりきれていない青年が、私に好意を抱いてる。私も彼が嫌いではなかった。落ち着いた考えと子どもじみた態度がのぞきだす彼が、なんか面白かった。
「これ私の連絡先。いつでも連絡してよ。夜だったらたいてい返せるから」
「ぼくの連絡先も、今からQRコードで読みとってもらえたら…」
「あなたのファーストメッセージで好意を読みとらせてもらうわ」
ちょっと年上風ふかして別れた。彼から連絡はくるだろうし、連絡を待っている自分がいた。
久しぶりにドキドキしている、私がいた。
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