第161話

「この盃に天の眉月を浮かべて、お召し上がりくださいませ」


 銀鱗は美しい顔容を、惜し気も無く今上帝に向けて、竜宮城のそれは派手な瓶子を盃に傾げて言った。

 注ぎ込まれる盃に眉月がゆらゆらと揺れて、ジッと覗き込んでいると綺麗な眉が盃に浮かんだ。


「…………」


 今上帝は銀鱗を凝視すると、銀鱗は意味ありげに微笑んだ。


「これ程に美しい眉を持つものは、我ら精にもおりませんわ」


 そう言いながら、クイクイと手酌酒の瑞獣碧雅に視線を向ける。


はなはだ口惜しゅうございますが、鸞族の眉はあの天の眉に例えられる程にございます……ですがかの美貌に長けます妃とて、子の碧雅には及びませぬ。の眉はまるで、この盃から取って貼った様でございましょう?」


 黒目がちで、丸くつぶらな瞳が揺れて笑んだ。


「……そう言えば、何やら御気鬱らしゅうございますとか?」


 銀鱗が夫に、瓶子を傾けながら言った。


「ほお?中宮と如何か致したか?」


 金鱗が盃を口に付けて聞く。


「中宮ではない。父院の法皇の言葉で、気が滅入っておるのだ」


 雛がもう一つの瓶子を、手酌で盃に入れて答えた。

 何とも今上帝の事なのだが、今上帝以外の者達で話しが進んでいる。


「ほお?法皇が何と申したのだ?」


 興味津々の金鱗は、朱塗りの盃を置いて今上帝を見つめた。


「お母君様が、を産んでみまかったは、が抱く青龍の力の所為だと宣った


 今上帝より早く雛が答える。


「青龍の力?どういう事だ?」


「私の青龍は、それは強力なものゆえ、母体が弱っていったと……」


 今上帝は、大きく溜め息を吐いて俯いた。

 これはかなりの凹み様である。

 こんな心持ちであれば、雛とイチャイチャ気分などなり様はずも無いが、それは至極当然の事だ。

 何せ父の最愛なる妻で、今上帝の最愛なる母を、その母胎の我が身が抱く青龍の所為で、薨らせてしまったのだから……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る