第148話

「くれぐれも思い違いを致すなよ。その子は天の大神の元で、神となる為に側に仕えさするのだ……神だ……そなたのその子は神となる。だが今ここでそなたが判断を誤れば、その子は神となる前に青龍に食われる」


 雛は光が消えたので、中宮の身から体を引いた。

 青龍の大いなる力から母子を護ったが為に、体のあちこちに痛みが走る。


「主上」


 中宮はうつ伏したままの格好で、声を張った。


「主上、不遜なる私をお許しくださいませ。私の腹の子は、貴方様の御子ではございませぬ……」


「……中宮よ……」


 雛が名を呼ぶと、中宮は怯える瞳を向けて震えている。


「そなた青龍を見たのか?」


「微かに……微かに……主上が御入りになられた時から、重々しい空気に圧倒され……その恐ろしげな視線を感じ身が震え……御身を見上げました刹那、光に包まれし青い龍が襲い掛かって参りました……」


「中宮よ、神仏の加護である。暫くののちその子は、天の大神の元に召されるであろうが、そなたにも判然と解る様に召されるゆえ、此度のそなたの判然が、誤りでないは解る……夢夢疑う事はない。今夜からぐっすりと休むがよい」


 雛は中宮の細い肩に触れると、未だ震えが止まらぬその体から離れた。


「中宮様を休まされよ……」


 痛む体を引きずって殿舎から出ると、女房達に声をかけた。

 すると中宮つきの女房達が、慌てて殿舎の中に入って行った。

 今上帝の側には伊織を初めとした、滝の口の者や近衛府の者達が、御身を守る様にしていたが、今上帝の身から現れたものなど想像できる者は、伊織の他にはいなかった。


「雛……」


 今上帝が側に寄ると、雛は微かに笑みを作って身を崩したから、今上帝は慌てて抱き寄せる。


「どうだ?私の虫の知らせは、大した物であろう?」


は私の物なのか?」


「そうだ。大した物だ」

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