第145話

 弘徽殿の廂の外の、簀子に雛は座らされた。

 中に入ろうとしたら、今上帝に置きやられたのだ。

 雛は納得のいかない表情を目一杯浮かべたが、今上帝はきつく睨んで置き去りにされた。

 絶世の美女とはどれほどのものか……

 以前今上帝をここまで狂わせた、を持つものをしどけない姿とした事があったが、確かにあのものの女体は美しかった。

 豊満過ぎる程ではないなまめかしさに、くちばしの黄色い雛は釘付けとなった。

 雛は痩躯を物凄ーく気にしているから、だからは忘れられない。今上帝が好むゆえに忘れられない。自分には無いから……。

 昨今の今上帝は自分に思いが在るのは承知だが、なぜかその先に進まない。

 幼い雛だから積極的にアピールしても、まだ早いと思っている事も察しがついている。この辺りはお母君様のご教育に感謝だ。幼く経験も無いが、恋のいろいろは知っている。草子のみならず、人間のいろいろを盗み見る術は、神に近いから諸々とできるのだ。

 ……できるのだが、やはり見ると聞くとでは大違いだ。

 第一己のが一番面倒だ。

 今上帝のでる女体を思うと、チクチクどころか何やら得体の知れないものが、胸の内に広がって苦しくなって行く。

 雛は胸を押さえて、余りに高く澄み過ぎる青空を見上げた。


 ……胸騒ぎはこの所為か……


 簀子に座して呟いた。


 

今上帝は中宮つきの女房に案内されて、弘徽殿遣り戸を通った。

 ここの何人かの女房を女御とした。

 こうして案内する女房の手を取り、そのまま押し倒した事もあれば、その辺の几帳に連れ込んだ事もあった。

 さすがにその時は中宮に咎められもしたが、他所でやる分には気にも止められる事はなかった。

 最初の女房は恐れ慄いていたが、次の女房からはを期待される事が多くなった。あり得ないはずの、女御への昇格が期待されたからだ。

 古より見初めたものに手を出す事はあるが、現在いまではそういったもの達は見捨てられる。幅をきかせたい一族が、美味しい処を独占する為には、身分の低いものの血は、どんどん追いやられてしまうからだ。

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