第144話

「解らん……が、厭な予感がする……中宮に関わり合うはやめろ」


「そうはいかぬ。中宮は我が妻だからな」


「妻とはいえぬだろう?」


「……それでも妻だ」


 今上帝がやり過ごして、雛を置いて行こうとされる。

 雛だから置いて行きたい。

 もはや心が離れた存在であろうと、長の年月恋い焦がれた相手だ、会わせたくはない。今夢中である相手だから余計だ。


「……ならば私も共をさせろ……側付きの身だ」


「今日はおとなしく、此処で待っておれ」


「共をさせねば行かせぬ」


 強情な言い方に、今上帝が呆れ顔をお作りになられた。


「今日一日時を止めるぞ」


「ば、馬鹿を申すな。その様な事、許されるはずがなかろう」


 今上帝は、強情な雛も可愛くて仕方がない。

 不本意ながら、言いなりになってしまう自分に苦笑する。

 幼い頃から思い続け、心を与えられず不貞まで働かれても、それでも尚思いが残る我が性分に辟易とするが、愛した相手にはとことん心を捧げてしまう。無性の愛とは聞こえがいいが、相手の全てを許し言いなりとなるのが本当の処だ。

 つまりちょっと情けない感は、自分でも否めないが、執着心が強いという事だろう。

 古より話しに聞く、寵愛したものに国を傾けかねない性格だ。

 救いといえば、そんな性質たちだから、次から次へと心が動かぬ事だが、反面一途に思い続けるは厄介だ。

 如何様に救いを他に求め様とも、決して心は満たされない。

 ……ゆえに中宮をずっと求め続けた。

 誰かに心が在るを知っても、誰に心が在るを知っても、身も心もそのものの物だと知っても……雛が現れなければ、今でも思い続けているだろう……これ程の目に遭っても、中宮の子ならばと受け入れ、苦しい程の猜疑心の中で生きて行く事だろう。


「ならば共に致せ……」


 吐いた言葉に自嘲してしまう。

 ずっとずっとこうやって、疑いながらも中宮の我儘も聞いて来たのだ。

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