第109話

 それでも自分は、の子だと思おうとするだろうか……と自問する。……いや、それはあり得ない。決してあり得ない……あり得ないが、暫くはそう言い聞かせて折り合いをつけねば、おかしくなりそうだ。

 もしかしたら……と、そう思って生涯その子を見て生きるのか?

 あれは父の子と確信を持ちながら、それでも一筋の疑念に憎み切れずに、我が子かもしれぬと疑心暗鬼を抱いて、その子を見て暮らすのか……。

 今上帝は蒼白と化して、脇息に疼くまった。


「主上……」


 伊織の叫び声が、遠くで聞こえた。


く侍医を……」


 清涼殿の中で、大勢の者達の声や足音が聞こえて、そしてプツリと消えた。



「今上帝……今上帝……」


 今上帝は雛の声に目を開けた。

 目の前で、それは可憐で可愛い顔が覗き込んでいる。

 雛はその白く細い指で今上帝の口を開け、唇が触れんばかりに近づけて気を入れてくれていた。


「おっ?気がついたか?」


「何だ?此度は物の怪を、吸い取ったのではないのか?」


「私のを入れてやったのだ……高々中宮が、他の胤を宿したと報告を受けたくらいで、だらしのないヤツである」


「フッ……さようであるな?高々のものか?」


「高々だ。いいか?私であらばそなたの胤ならば、どの女体が孕もうが気に致さぬぞ」


「はは……それとは違うであろう?」


「違うか?」


 雛はそれは心外そうに、小首を傾げて今上帝を見つめる。

 その仕草が余りに可愛い過ぎて、今上帝は思わず笑みを浮かべた。


「……しかしながら、そなたがどんなに中宮を思っておっても、私は気に致さぬぞ」


「雛よそれも違うぞ」


「今上帝。これは違わぬぞ。私はそなたの為に生まれ、そなたの為に育てられ、そなたの為に今生を生きるのだ。仮令そなたの思いがのみでも、私はそうして今生を生きるのだ……」

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