第102話

「たまにはよいではないか?夫婦なのだ」


 拗ねまくる雛に、今上帝は悦に入って言われる。


「確かに。そなたの子を宿すは中宮が一番だからな……後々面倒な事が起きねばな」


 物凄ーくめいっぱい、嫌味を込めて言う。

 それを聞いて今上帝は、目を丸くして雛を見つめた。


「面倒が起きたら如何致すのだ?」


「さすれば自業自得だ、ざまーみろ」


 雛はあっかんべーをして見せたので、今上帝は思わず吹き出された。


「確かに自業自得だ。さすればそなたは如何致す?」


「だからざまーみろと嘲笑ってやる」


「……だけか?」


「他に何がある?」


 かなり本気で拗ね拗ね雛は、真顔を作って言った。


「……そなたが側に居れば、別にいい……」


「側に居るは当然であろう?私はお母君様から……」


「ああ、解った」


 今上帝は楽しそうに、雛を見つめて笑った。


「では私は……」


 伊織は上申書等を置いて頭を下げた。


「ああ……ご苦労であった」


 思いのほか今上帝が御元気なのにホッとして、清涼殿を下がる時に、雛に目配せをして外で暫く待った。

 すると雛は今上帝が上申書に、視線を落としている隙に外に出て来た。


「昨夜だが……」


 伊織は雛の側に寄って、声を落として言った。


「はん。私は時を止めに参ったのに、あやつは去れと申した……」


「それはご本心ではない」


「はあ?最愛のお方と、久々に愛しあったのであろう?大人のだ」


「ああ……真実まこと大人の……だ。大人の事情だ。汚らわしい事情だ」


 伊織が余りに苦々しく言うものだから、雛は唖然とする。


「昨夜主上は、に何かを盛られた……その何かは主上の理性を飛ばす物であった……」


「なんだ?媚薬を盛られたか?」


 見た目は乙女なのだが、恥じらいもへったくれもあったものではない。

 伊織は呆気にとられて直視する。

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