第53話
今上帝は目で側の女官に合図して、下座で傅く女房から文を取らせた。
「お返事を頂いて参る様にと……」
「今宵はそちらに参りましょう……そうお伝えせよ」
決して女房に視線を向ける事なく言うと、女官が同じ事を女房に伝えた。
すると女房は重々しく頷いて、その場を後にした。
「よい。文は焼いてしまえ」
今上帝は女官が手にした文に、視線を向ける事もなく言い渡したので、女官は命をきかないわけにはいかずに、そのまま文を持ったまま奥に下がった。
「今宵の催促でございますか?」
その声を聞いた瞬間に、今上帝は視線を動かして伊織を見つめた。
「そなたを探させておったのだ。何処に参っておった?」
「陰陽師と会うておりました」
「陰陽師?」
「主上がお望みのものを、探させておりました」
「私の望みのもの?はて?」
今上帝は、先程までの物憂げな表情をお消しになられそれは真剣な御表情を御向けになられる。
「嘴の黄色い雛にございます」
「雛?」
すると今上帝は身を起こして立ち上がられると、真顔で伊織を見つめ続けられている。
「雛がどうしたのだ?あれは天に還ったのではないのか?」
「天に?かの瑞獣にございますか?」
今度は伊織が目を合わせて聞いた。
「瑞獣は天に還った……」
「雛は瑞獣でございますか?陰陽師の安倍朱明が、嘴の黄色い雛の事を存じておる様でございます」
「何と?……何処におるのだ?」
「それはまだ……主上が如何なさりますか、お伺いを立ててからと思いまして……」
「疾く……疾く会いたい」
今上帝の御返答に、伊織はほくそ笑みを浮かべた。
「……ならばその旨を、安倍朱明に伝えます」
伊織は微かな笑みを浮かべて、清涼殿を後にした。
幼い頃から母と共に傅いた皇子は、直ぐに皇太子に立せられ、それから少しの時を経て幼く即位された。
後見には摂政がいたが、当然ながら上皇もいた。
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