第47話

 またまた朱明は、生返事をするしか術はない。

 宮中の者達と言われても……そんなに洗礼されたもの達など、そう会える立場の朱明ではないし、もっともっと磨き抜かれた美女なんか、御簾の中にいるのだから、御目通りすらあり得ない身分だ。

 言われた処で、返事の仕様がないのが本当だ。


「……さて……」


 一通り宮中の事なのか禁庭の事なのか、自慢していた金鱗が、寝惚け眼で生返事の朱明を見て言った。


「彼処のもの達は、宮中のもの達に感化されてな、それは噂話しが好きでな、宮中のいろいろを知っておるのだ」


「はあ……」


「ゆえに私は妻の機嫌を取りがてら、仕入れてやりに行って参ったのだ」


「はい?」


 とても恩着せがましく言われたので、朱明は意図を図れずに凝視する。

 すると金鱗は、焦れた様に眉間に皺寄せした。


「今上帝の望むものだ」


「え?今上帝様のお望みの物が、解りましてございますか?」


「おうよ……あやつは、心底心中を語れる者は少ないからな……鳥や花や魚くらいにしか明かせぬのだ……実に哀れな奴よ」


 金鱗は朱明の気持ちなどお構いなしに、得々とまた語り出した。

 そんな事に構っていられない朱明は


「そ、それで何をお望みで?」


 と気が焦る。

 お望みの物さえ解れば、を探し出せばいいのだ。

 ゼロから始めるより、事は早いし楽に済む。

 こういう処には、頭が回る朱明だ。


だ……」


「ひな?」


 朱明は、金鱗の顔を見つめて渋面を作った。


「ひな?ヒナ?」


 呪文を唱える様に、朱明は繰り返す。


「ひなだ雛……」


「ひな?」


「ほれ?雛だ……」


「雛?」


 物凄く意味ありげに言うのだが、には心当たりがない。


「陰陽師よ〜」


 金鱗は呆れる様に、焦れる様に朱明の名を呼んだ。


「えっ?雛?雛でございまするか?……嘴の黄色い……???」


「おお!やっと思い当たったか?愚鈍者よ」


 言われ方はあんまりだが、確かに鈍臭くはある朱明だ。

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