第43話

 かの有名な竜宮城にも似た屋敷は、太古の昔、此処が湖であった頃の名残だ。

 竜宮城の主人あるじとは、同じ神を祖先に持つ魚の精の一族だ。

 彼方は大海へ、此方は神山の泉から大河を住処とした。

 当然の事ながら、神々の山と称される神山には、両方を同じくする祖先が屋敷を構えている。つまりは神だ。

 神山とは、現世では霊山となって姿を現しているが、ただ一個の凹凸のある大地だ。平たくいえば、現世と同じで山もあれば谷もある、滝もあれば川もあり、野原もあれば森もある。

 そんな一画が所々に霊山として現世に姿を現して、現世の穢れをその強大なる神気で浄めているのだ。

 彼方の竜宮城には、海神とか綿津見わたつみ神が住むと言われて、此方の金鱗の事を、河神かしんとか河伯かはくとか言う者もいるが、金鱗は大神から頂いた魚精王という呼び名がお気に入りだ。

 何せ大神は、この中津國なかつくににしか存在しないのだから、金鱗にしてみれば唯一無二の存在といえる。


 金鱗は久方ぶりに、それは美しい自慢の妻と並んで、主人の帰還に沸く饗宴を楽しんだ。

 なんといっても自慢の妻である王妃銀鱗は、久しぶりに最愛なる夫に愛されて、それはそれはご満悦で機嫌が良い。

 始終和かに笑みを浮かべ、その美しさを際立たせているし、暫く見ない内に成長した王子も王女も、父の帰還には嬉しさしかない様だ。


「そう言えば、昨今のの様子はどうだね?」


 鯛や鮃の舞い踊りならぬ、鮎や岩魚の舞い踊りを堪能しながら、それは美しく艶を放つ銀鱗を見つめて金鱗は言った。


「上?ああ……上ね……」


 チラリと上を見て言った。


「相変わらずですわ……」


「そう投げやりに言わずとも……今回の天子はどうだい?」


「ああ……は駄目ね……女狐に腑抜けにされていますもの」


「女狐に腑抜け?」


 金鱗は妻を凝視した。

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