第28話

 正二位まで上り詰めたのだ、それなりの屋敷を構えた様だが、残念ながら朱明の代迄には凋落している。

 この屋敷は、当時の主上様より賜り、その主上様が御成り下された事がある、と言い伝えがしめやかに残っている屋敷で、正二位もそれは大事にしていた様だ。

 能力のない貴族は、時代に付いて行けずに凋落も早い、正二位程の裁量の無かった祖先は、たちまちの内にその地位を追われた。

 残されたのは、古の有名人が持っていたという能力だけだった。

 その能力は何人かの祖先に受け継がれ、こうして陰陽寮だけには面目を保っている。

 ゆえに正二位の建てたという屋敷は残っておらず、正二位が頂点に達する以前に天子様から賜った、この屋敷だけが朱明に残された。

 貴族達のには到底及ばないものの、今の朱明には身に余り過ぎる程の建物だ。

 一応寝殿造で、壁の無い透渡殿すきわたどのではあるが、建物を繋ぐ渡殿わたどのがあって、プチ豪華な庭園に池まであって、池に突き出る釣殿つりどのに泉殿があり、中門には車宿くるまやどがある。

 北の対屋には母が妹と住んでいるし、こんな美しい女人が家中の者達を気にせずウロウロとされては、どんな噂が立つか知れた物ではない。

 ……とは言っても、家柄が代々不思議な物を見る事のできる家系だから、美貌に長けた瑞獣のお雛様が、かの伝説のお妃様の御子様で、正二位の縁で朱明を頼って来たと説明すれば、哀れみの笑みを浮かべられるであろうが、たぶん信じてもらえるとは思う……思うが……。

 ……とにかく、お妃様が、今上帝様に捧げられる瑞獣様だ。

 今上帝様がはなも引っかけぬお子様であろうと、姫としてのはしておいた方が無難だ。

 何故かそんな胸騒ぎがするのだから、此処はキチンとしておこう……と、若いながらも気が回る朱明は、さすがに琴晴の子孫である。

 安倍琴晴、かの昔正二位まで上り詰めた、我が一族で唯一の公卿である。

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