第7話 情報提供
破魔は俺を昨日のソファーへと座らせると、
「こんなもんしかねぇけど」
と、言って茶を淹れてくれた。
「腕の様子はどうだ?」
「ああ、傷は残ったままだがもう大丈夫だ」
「…なんかお前、元気ねぇな何かあったか?」
「そう見えるか?」
さすがに八重垣さんにぼこぼこにされたなんて恥ずかしくて言えない。
「ははーん?さては八重垣の奴に殴られでもしたな?」
何でわかるんだよ…。俺はそっと視線をそらした。
「図星かよ…」
そう気まずそうに言って破魔は茶を
そして、コップを置き、尋ねた。
「それで?覚悟はできたんだな」
「ああ元より」
そんなものはとうに出来ている。俺はもっと色んな事を知らなければならない。昨日の男が言った事が本当なら俺の記憶とこの世界には何らかの繋がりがある。だから今日はこの世界について情報を集める。『先輩』である破魔は、「俺が知る限りの情報を開示しよう」と言ってくれた。
なぜ急に協力的になったのだろうか。昨日は「諦めろ」と突き放したのに。
「それじゃあ、まずは何について知りたい?」
「まずはこの世界がどんな世界なのかが知りたい」
「どんな世界、というと?」
「地球との違いだったり、地理的な事だったり、現在抱えている事情とかも」
そう言うと、破魔は
「ちょっと待ってろ」
と、奥の部屋へと消えた。
しばらくの間、何かをぐしゃぐしゃにしたり、落としたり、倒したり、幾度も破壊音が鳴り響いた末に破魔は出てきた。あの部屋は一体どうなっているんだ…。魔界にでも繋がっているのか?
「地図を持ってきた。と言っても手書きだがな。」
そういって1.5m四方程の地図を地面に広げた。
そこには4つに区分されたこの世界のほぼ全てが描かれていた。
「これがこの世界の大まかな形だ。世界の端がどうなっているのか、とかそういった面倒な事は今回は割愛するぞ。それで、俺達が今いるのがこの西側にある『
『
「一つ気になったんだが…、ここの空白はなんなんだ?」
そう、この地図の下部にはやたらと空白が多いのだ。調査しきれていないのかもしれないが、他の里は、ここからどれだけ遠くてもほとんど埋められている。
「そこは危険区域だ」
「危険区域?」
急に危なくなったな…。
「ここにはそれこそ殺人とか平気でやるような奴等がいる。現在抱えている事情はまあ強いて言うならこいつらの存在位だ」
俺はゾッとした。なぜそんな所が?それこそ野放しにしてはならないだろう?
「もちろん全域じゃない、ここの埋められている所は調査できた場所だ。ちゃんとそういう所もあるし、そこの治安を守るべく組織が形成されている」
「ふーん。そこには行けないのか?」
「基本的には無理だ。それができたら向こうにいる奴等が出て来ちまうだろう?」
確かに。じゃあこの地図はどうやって作ったんだ?ふと、そんな疑問が浮かんだが、今はスルーすることにした。それは俺が知ったところで意味が無い。それに、その他の里は特に危険そうでは無い事が分かっただけでも十分だ。
「あとは『力』について位だな」
『力』、師匠や八重垣さんが見せたあれか。
「この世界には多かれ少なかれ『力』を持っている人間が存在する。そして、『力』は五種類存在する。
対象を強化する事に特化している『
体外に放出する事に特化している『
形成する事に特化している『
あらゆる物に干渉する『
そして、あらゆる物を創造する『
…情報量の多さに頭が痛くなってきた。
「『輝力』が飛び抜けて強いんだな」
「確かにな。だが『輝力』だけは俺達みたいに異世界から来た人間は持てないんだよ。これだけは遺伝によるものらしいからな」
遺伝による力か…。それだけ強大で特別なのだろうな。
「ちなみにお前はどの力を持ってるんだ?」
「俺は…翠力だ。この前の襲撃の時に見ただろう?」
ふと昨日の破魔の槍を思い出す。
今の説明からしてあの黒っぽいのが翠力だったってことか。
霧のように消えたため、あの時俺は不思議で仕方がなかった。
「まぁここまで結構色々と喋ったが、どうだどれ位理解できた?」
「そうだな、まあ半分くら―」
破魔が黙って例の槍を突きつける。視線だけで殺されそう…。
「もちろん全部理解したさ…」
そんな下らないやり取りを終えて俺は『力』について素朴な質問をしてみた。
「ところで破魔。『力』を持っているかどうかってのはどうしたら分かるんだ?」
もし俺も何らかの力を持っていればより早く強くなれるかもしれない。それに、特殊能力は男の夢だしな。
「それなんだがな、さっきあの部屋でそのための道具を探したんだが見つからなくてな。だからまた今度来てくれ。その時までに探しだしておく」
本当にどうなってんだよあの部屋。
「分かった」
「お前はそれまでにしっかり鍛えておけ。『力』を使うためにも地を固めておく必要があるからな」
「へーい」と、気だるげに返事をする。やはりそう簡単に強くはなれないか。
「最後に一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
俺は破魔に一番聞きたかったことを訊ねた。
「俺の記憶は戻るのか?」
「………」
破魔はだまっりこくって少し考えた後口を開いた。
「確証はないが可能性はある。現に俺は俺自身を含め記憶を取り戻した奴を何人か見てきた」
その答えにほっとして俺は胸を撫で下ろした。よかったと心の底から思った。
「まともな奴はいなかったがな」
今何か呟いたような…。
「ん?何か言ったか?」
「いーや、何も」
気のせいか…。
破魔に「ありがとう」と礼をして俺は立ち上がった。ドアに手を掛けた所で俺はふと破魔に聞いた。
「そういえば何で急に協力してくれたんだ?昨日はあんなに反対していたのに」
破魔は涼しい顔で答えた
「なにちょっと見たくなったんだよお前の行く末をな」
「そうか、じゃあこれからもよろしく頼む、破魔」
「ああ」と破魔は昨日のように手をヒラヒラと仰いだ。
そうして、俺は破魔の家を後にした。
「走って帰るか」
そう言って俺は家路につくのだった。
×××××××××××××××*××××××××××××××××××
その頃破魔の家にて。
先程破魔が探し物をしていた部屋で破魔は地図を片付けと整理をしていた。
「あれでよかったのか?」
破魔がそう問うと、その後ろで白と黄色のローブに身を包んだ女は、
「ええ多少誤算はありましたがここまでは筋書き通りです」
妖しい笑みと共にそう答えた。
「それにしても意外でした、貴方から協力してくださるなんて」
破魔は暫く黙って片付けをして呟いた。
「勘違いするな。俺は見極めるだけだ。あいつが『候補者』に足る器かどうかをな。でなければあいつらと同等である事など認められる訳がない」
破魔はある兄妹を思い浮かべていた。その昔、破魔と共にここで過ごしていた2人を。
「だからその為に多少の時間は貰うぞ。」
「ええ、いいでしょう。ですがあまり時間をかけてもらっては困ります。これは計画の第一段階に過ぎないのですから」
「分かっているさ。別にお前らが何を画策ようが構わない。奴にその資格がなければ、ただ殺すだけだ」
その様子を見て、女はそっと微笑を浮かべるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます