第56話 父親と娘と
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ロゼット達姉弟がヨゼフィーヌ・Ⅳ・ギーゼギングとの最終決戦を繰り広げていた頃……。
ニーダルもまたロゼットやイスカを守るため、ルートガー・ギーゼギングと複製された三体のヨゼフィーヌと激戦を繰り広げていた。
「ニーダル・ゲレーゲンハイト。これが世界を統べる力、第一位級契約神器ギャラルホルンだっ」
ルートガーが角笛を吹き鳴らすや、ニーダルの走る足場が消えた。
何クソと跳躍した先、大気そのものが砕けて爆発する。
周囲一帯の空間という空間が、ルートガーの支配下に置かれていた。
「それが、どうしたぁっ!」
ニーダルの背から、獣のような機械のような炎がまろびでる。
焔の翼――システム・レーヴァテインは、ギャラルホルンが空間を変える力そのものを滅ぼすことで、世界を元通りに戻す。
しかし、その直後、半身半獣の融合体となったヨゼフィーヌ達が、竜巻を伴って襲いかかってきた。
「お父様の為に尽くすのがわたし達の悦び」
「私たちの生きる理由の全ては父様」
「それが愛と言うものでしょう」
ニーダルは、焔をまとった十文字鎌槍で風刃と竜巻を叩き斬った。
「お前ら、それでいいのかよっ」
Ⅴが叩きつけてくる鉄扇を柄で腕ごと巻き取って投げ飛ばし――、
Ⅵが振り下ろすキメラの爪を鎌で受け止め――、
Ⅶがキメラの頭部から吐き出そうとすブレスを、首を刎ねることで防ぐ――。
(詩歌に曰く、『突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌、とにもかくにも外れあらまし』と詠われた槍術の開祖が生み出した名槍だ)
ニーダルは、日本で指導を受けた経験は一度も無い。
けれど、技術試験隊に教わったガードランド聖王国の軍隊式槍術を基礎に、一〇年もの長きに渡って戦場で研鑽を続けている。
難しい槍も、もはや己が手足の如く扱い得た。
「ルートガー、てめえはぁっ」
「まずはその槍、砕かせてもらおうか」
ルートガーがギャラルホルンに七色の光をまとわせ、三日月十文字槍に叩き付ける。
希少なミスリル銀で鍛えたニーダルの槍は、魔力付与によって、自己修復能力すら備えた
とはいえ、所詮はマジックアイテムに過ぎず、世界を書き換える上位神器の力を前に凌しのぎ切れるものではない。
「容易いぞっ」
ルートガーの空間破砕によって、ニーダルの槍は穂先ごと叩き斬られ、真っ二つに折れる。
「男の最後の武器はぁ、スデゴロだろぉっ」
しかし、ニーダルは待っていたとばかりに、ルートガーの腹に膝蹴りを突きたてた。
「ぐはっ」
ルートガーは、空間を操って防御しようとするも、ニーダルの炎に焼かれて直撃を受ける。
ここぞとばかりに追撃を試みるも――。
「お父様」
「無礼者」
「やらせはしない」
ニーダルは、三体のヨゼフィーヌに阻まれて。
直後に、異変が生じた。
「あ、ああっ」
「げふっ」
「こほっ」
三体のヨゼフィーヌが
「なんだ、Ⅳが敗れたのか。仕方が無い、計画の大幅な変更が必要だな」
ルートガーは汗をハンカチで拭うと、角笛を手に戦場に背を向けた。
「ルートガーっ、てめえ、逃げる気か」
「逃げるのでは無い。大志を果たすために行くのだ」
三人のヨゼフィーヌは、そんな父親を護るように息も絶え絶えに喘ぎながら、鉄扇を手にニーダルの前に立ちはだかった。
「てめえら、わかっているのか。あいつは、お前達に背を向けたんだぞ……」
ヨゼフィーヌ達の身体はゆらぎ、異様な文字や模様が全身を巡っていた。
けれど、三体の行動はまるでプログラムでもされたかのように同じで……。
「家族ですもの」
「家長に従うのは当然のこと」
「すべては大いなる愛のために」
「ヨゼフィーヌ、お前たちの命をかけて、その男を葬りなさい。私たち家族の、愛の強さを教えてあげよう」
ルートガーが歩き出すと同時に、ヨゼフィーヌ達の獣を組み合わせた下半身が、人型の上半身を飲み込みながら、崩れ溶けて明滅する。
「おい、お前達。暴走してるのか?」
ニーダルは愕然とした。
ヨゼフィーヌ達の変化だけではない。
眼前の父親が、血の繋がった娘を道具にすることに、何の
「それが人の親のやることかぁ?」
「子は親に尽くすものだろう? 心配せずとも、君の娘達はちゃんと育てて見せるとも。〝いい子〟に、ね。さあ、空間を閉ざそう。さらばだ、我が愛する娘たち」
ルートガーが角笛を吹き鳴らすと、気絶したテロリストや私兵達を巻き込みながら、周囲数百mの荒野が七色の光に閉ざされた。
三体のヨゼフィーヌは、もはや人型を留めず、まるで肉塊のようになってニーダルを飲み込もうとする。
「ちくしょうめっ。俺の力で救えるか……」
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