第6話 村長の娘達
鍛練を終え茂みの中を通り家に帰る途中、話し声が聴こえてきた。地に伏せ、様子を伺う。
「なによあいつら、いつもいつも突っかかってきて! 目障りだわ!」
「お姉ちゃん、そろそろ落ち着いてよぉ、ティックさんたちもきっといっしょに遊びたかっただけだよ」
2人の少う女の声が聴こえる。どうやら怒りを露にしている方を、もう一方が宥めているようだ。通り過ぎるのを待とう。
「多少力が強いくらいで威張り散らして、次にあったら容赦しないんだから! パパにも言い付けてやるわ!」
「やめようよぉ、みんなで仲良くしよう?」
「あんなやつらと仲良くできるわけ無いでしょ!ノエル、火魔術の練習をするわよ!焼き払ってやりましょ!」
「そんなことしたら怒られちゃうよ、そろそろ帰らないと。お父さんも心配してるよ」
「……仕方ないわね。今日のところはこの辺で、ん?」
1人が不意に立ち止まり、こちらに視線を向けた。
「誰かいるわね。隠れてないで、出てきなさい!来ないならこっちから行くわ!」
何かを抜き出した音が聴こえた。これは観念したほうが良さそうだ。俺は茂みから抜け出した。
目の前に立っていたのは2人の少女。この2人は知っている。剣を構え、こちらを油断なく睨んでいるのが姉のミラで、後ろに隠れ不安そうにこちらを見つめているのが妹のノエルだ。この村の村長の娘で、姉は魂核を纏っている。妹は魂核こそないが魔術が使えるのだとか。
「戦う意思はない、剣を下ろしてくれないか」
「……あんた学者のところの子?こんなところで何してるの?」
鋭い視線が俺を射抜く。
「……家に帰る途中で話し声が聴こえたから、面倒なことが起きないように隠れてやり過ごそうとしただけだ。」
「その木刀はなに?待ち伏せ?」
茂みに木刀を放り投げた。
「鍛練用だ」
「あいつらの仲間?」
「違う」
「ふぅーん、ならいいわ。帰りましょノエル」
納得してもらえたようだ。剣を納め、もう興味がないと言わんばかりに、妹に話しかけ歩き出す。
「う、うん。そうだねお姉ちゃん。帰ろっ」
妹はこちらを気にし1度頭を下げたあと、姉の後についていった。
魂核所有者との会話は神経が磨り減る感覚がする。疲労を感じながらも家路につくことにした。
帰宅し食事の後、父は話しかけてきた。
「デイルは仲の良い友達とかいないのかい?」
「……必要ないよ」
「必要ない、かー。でもねデイル、気兼ねなく自分のことを相談したり、一緒に苦楽を共にできるような人がいれば心が軽くなるんだ。目的を共有する仲間になったっていい。そうやって長い時間が経ってくると、家族になったりもする。父さんと母さんのようにね。村長の娘さん達とかどうかな?どっちも可愛かったと思うけど。父さんデイルには沢山のお嫁さんに囲まれて幸せになってもらいたいな!」
馬鹿なことを言う。
確かに姉のミラは堂々とした立ち姿で誰に対しても物怖じせず、妹のノエルは弱気だが可憐という言葉が似合う、どちらも鮮やかなブロンドの髪をした少女だったが、俺と関わることもそうないだろう。
「そういえば出会った頃の母さんも、今のデイルみたいに行動力に溢れていてね、目を放した隙にすぐに遠くに行ってしまうんだ。森の中で木に寄りかかって寝ていたことがあってね、すごく心配して探して見つけた時に、なぜこんなところにいるのか聞いたら、『精霊様の声が聴こえたの』なんて言って笑ってるんだ。その笑った表情が不覚にも可愛くてね、どんどん惹かれていったんだなぁ」
父はどこか遠くを見るように語っていた。母との思い出は今でも鮮明に思い出せるのだろう。
「もっと聴かせてよ、母さんのこと」
記憶の中には無いけれど、知りたいと思った。
父は僅かに迷うそぶりを見せた後、懐かしそうに話を続けた。
「そうだなぁ、それじゃあ村長を突き飛ばして肥溜めに落とした時の話をしようか」
久しぶりに、父は本当に楽しそうに笑った気がした。
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